著者
吉崎 尚良 青木 一洋 望月 直樹 松田 道行
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.2, pp.135-141, 2005 (Released:2005-10-01)
参考文献数
22

細胞内シグナルは,複数の分子の相互作用と酵素反応の連携によって伝播する.細胞外からシグナルが入力されると,多数の分子が相互作用するが,その相互作用は,時間的,空間的に様々に変化する.そしてそれら多様な相互作用は,細胞の分化,細胞骨格の再構成,遺伝子発現,という生命現象として最終的に出力される.こうした細胞内シグナル伝達に関わる分子の同定や機能解析は従来,遺伝学的,生化学的,分子生物学的手法によって行われてきた.これら既存の手法は目的の分子のシグナルカスケードにおける位置や,試験管内での酵素活性を知るには有効であるが,“細胞内のどの部位で,いつ”という時空間的な情報を知ることはできなかった.この問題を解決するために,近年,蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用した生体内の反応を可視化するFRETプローブ群が開発されている.とくに,緑色蛍光タンパク質(GFP)をこのプローブ群の作製に用いると容易に細胞内に導入できるため,その利用に拍車がかかっている.さらに,これらのFRETを利用すれば,特定のタンパク質の活性を非侵襲的に画像化することが可能となることから,1細胞単位での分子機能の解析のみならず,さまざまな病気の診断や治療評価まで役立てようとする試みが始まっている.本文ではこのGFPを利用したFRETプローブの一例として低分子量Gタンパク質であるRhoの分子センサーを用いて,その利用の実際とそれによりわかってきたRhoファミリーGタンパク質の活性変化について解説する.