著者
福井 浩二 大矢 昌樹 大谷 晴久 吉川 聡介 玉井 浩 宗 正敏
出版者
公益社団法人 日本ビタミン学会
雑誌
ビタミン (ISSN:0006386X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.10, pp.525-526, 2004-10-25 (Released:2017-10-10)

γ-トコフェロール(γ-Toc)の生体内での主要な代謝産物であるとされる2, 7, 8-trimethyl-2-(β-carboxyethyl)-6-hydroxycroman(γ-CEHC)が発見されて以来, その物質が保持するであろう生理機能に関し, いくつかの報告がなされてきた. その多くは, 高NaCl食下の際の尿中でのNa排泄促進効果とされており, 実際に動物モデルでの検討が広く行われている. しかし, 人においての詳細な検討はまだ十分とは言いがたい. そこで本実験では健常人に400mgのγ-Tocを単回経口投与し, 尿中のNa排泄促進作用について検討を行った. その結果, γ-Toc製剤投与群(5名)では, 投与後6時間までのNa排泄量およびNa排泄率がプラセボ群に比べて有意に高値であった. また, 投与前後において両群の間に, 尿量およびクレアチニンクリアランスに有意な変化は認めなかった. 更に尿中におけるγ-CEHC量は, 投与後12時間で最大となった. 以上のことから, γ-Tocは健常成人で高食塩食下において尿Na排泄促進効果を有するものと考えられる. 〔論議〕岡野委員 以下の2点をお教えください. 1)NaK-ATPaseは腎細管でPi輸送とカップルしていると思いますが, γ-トコフェロール投与においてPi酸の尿中排泄に変化は見られなかったでしょうか. 2)γ-CEHCの産生臓器は既に特定されているのでしょうか. 宗 正敏氏1)γ-トコフェロールの作用機序としては, Kチャネル阻害が主と考えられていますので, リン酸の尿中排泄は検討していません. 2)γ-CEHCの産生臓器は主に肝臓と考えられています. <玉井副委員>アルドステロンなどホルモンの影響はお考えでしょうか. <宗正敏氏>Kチャネル阻害により遠位尿細管へ到達するK量が増加することから, アルドステロンの関与が考えられる. 他のホルモンについては不明です. <阿部特別委員>1)血中のγ-CEHCの測定はされておりますか. 2)病態におけるγ-CEHCの変動を検討する予定はありますか. <宗正敏氏>1)現在, 検討中です. 2)腎臓病, 肝臓病等におけるγ-CEHCの変動を検討したいと考えています. <吉村特別委員>投与したγ-トコフェロールの量に対して, 尿中に出てきたγ-CEHC量の割合(モル比)はどの程度か. 追記:動物実験の場合との比較で考えられていると更によいのですが. <福井浩二氏>投与から排泄まで時間的なラグもあることから割合を出すことは難しいと考えられます. また, γ-CEHC自体がどの臓器にどの位存在するかを明らかにしなくてはならず, この点も問題を複雑化しているといえると思います. <吉川聡介氏>(共同演者)γ-トコフェロール投与量において尿中Na排泄量は0〜6hの間で有意に増加, 尿中γ-CEHC量はγ投与後6h以降で有意に増加した. 尿中γ-CEHCの増加時期と尿中Na排泄量の増加時期とにはずれがあるが, 血中γ-CEHCと, 尿中γ-CEHCのどちらがNa利尿作用を示すか. <宗正敏氏>今回のデータからは血中γ-CEHCが作用したと考える方が理解しやすいですが, ご質問の点は更に検討したいと思います. <宮澤委員>γ-CEHCより側鎖の長い代謝中間体にはこのような活性はないのでしょうか. γ-CEHCに特異的な作用でしょうか. <福井浩二氏>現在報告されている中では, γ-トコフェロールの最終産物であるγ-CEHCが最も高いNa利尿作用があるとされています. 中間体も確かに存在しますが, その濃度は非常に低く, 今のところ, 生理的な作用はないのではないかとされています.