著者
吉日木図 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.2_1-2_10, 2018-09-30 (Released:2018-10-25)
参考文献数
56

今日,急速な定住化が進む中国・内モンゴルにおいて,長い遊牧生活の歴史のなかで構築されてきたモンゴルの人びとの独自の時間概念が消失する危機に直面している。本稿では,遊牧生活を営む人びとが,どのように時間を把握してきたのかを確認し記録するとともに,モンゴルの遊牧生活に培われてきた時間概念の特質を明らかにすることを目的とした。調査・考察の結果以下の知見を得た。(1)人びとは,太陽,月,星,気候の変化,植物,動物やその規則的な生態などを始めとした自然が直接与える現象・情報によって生活における時間の秩序の「節目」を設定し,自らが一日,一月,一年のどの時間にいるかを把握してきた。(2)周囲に起こる全ての自然現象や動植物の状態に目を向け,蓄積した「経験」が来たるべき時間がどのような状態であるかを予測可能にし,それらを生業に応用し共有してきた。(3)時間の把握の仕方には,当該地域の自然に適応しようとしてきた人びとの生き様が如実に反映されている。(4)遊牧生活の時間概念は,「過去」と「今」によって定められるがゆえに「未来」へとつながるものであった。