著者
富田 誠 越尾 淳
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第64回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2017 (Released:2017-06-29)

行政機関では、公務員が政策を視覚化した資料を多数制作している。しかし、制作に必要な時間的コストやデザインの質について課題を抱えている。そこで、公務員自身つまり当事者が効率的で最適なデザインを持続可能な形でできるように、専門家であるデザイナーが公務員に対し、プロセスや学び、パターンデザインなど多様なデザイン支援を実施した。最終的にこれらの取り組みを省察し、Colleciton, Analysis, Criteria-design, Pattern-design, Learning, Designという6つのステップと当事者とデザイナーの役割分担としてまとめ、当事者デザインの方法論的枠組みを提案した。
著者
石丸 進 石村 真一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.1-10, 2004-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
25

本研究は,わが国の室内・家具と中国家具文化とのかかわりを,坐臥具を中心に比較・検証した。その結果,次のことが明らかとなった。(1)中国坐臥具の床(牀ともかく)は寝台であり,日本の「床の間」「床几」「床子」などの語源や形態に影響した。(2)「榻」は,日本の縁台や店棚形式の坐具と類似する。(3)中国北方の寝床「?」での起居様式は日本と同じ床坐であった。?で使用する「?卓」は、日本の「座卓」の原型であった。(4)?の起源は,古代中国の俎を原型とし,小?子は,日本の踏台や風呂腰掛けと同一構造・形態であった。(5)条?は,日本の床几と構造・形態で一致し,使用法も類似していた。
著者
松崎 元 大内 一雄 上原 勝 上野 義雪 井村 五郎
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.69-76, 1999-01-31 (Released:2017-07-21)
参考文献数
13
被引用文献数
4

つまみ・水栓金具・ふた等の操作具を前提とした円柱の回転操作において, 使用する指の状況が円柱の直径の変化によって, どのように推移するかを検討するため, 32名(19〜20歳の男性23名, 女性9名)の被験者で実験を行った。実験の方法は以下のようなものである。直径が7mm〜130mmの間で異なる木製の円柱(高さ50mm)を45本用意し, 無作為に選択された各円柱を, 順に台上の回転軸に差し込み, 右手で時計回りに回転させる。操作の状況は, 下方からビデオカメラで撮影し, 得られた画像から各指と円柱の接触状況を判断した。その結果, 回転操作開始時に使用する指の本数が変化する境界値を, 相対的に図示し把握することができた。また, 円柱の直径が増大するのに伴って, 各指の接触位置がどのように推移するかを二次曲線で近似でき, その傾向が明らかになった。この結果は, 回転操作機器の形状デザインに役立てることができる。
著者
伊豆 裕一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第56回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.E15, 2009 (Released:2009-06-16)

わが国のブラウン管テレビには、1952年に発売が開始されて以来、2005年に液晶テレビなどフラットテレビに主役の座が入れ替わるまでの54年間の歴史がある。本研究は、東芝科学館に収蔵されている1950年代から70年代にかけて製造されたテレビの実機の分析等を実施し、その間のデザインの変遷について、市場やユーザーのライフスタイルの変化などに加え、材料や製造技術など工業デザインと関わりの大きな諸要素との関係を明らかにすることを目的としている。結果、デザインはさまざまな進化の過程をたどって現在に至っているが、外観デザインの特徴から4つの時代に分類することができる。また、デザイナーは、各時代において最新の加工技術を取り入れることで、コストダウンを図りながらユーザーニーズに適合した高品質なデザインを実現してきたことがわかる。
著者
石川 重遠 後藤 吉郎 山本 政幸
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第56回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.G02, 2009 (Released:2009-06-16)

この研究は、アメリカのゴシック体に影響を受けた日本のゴシック体の創出について明確にするものである。欧文書体とタイポグラフィの3名の専門の研究者がこの課題解決に取り組んでいる。山本は、ヨーロッパのサンセリフ体がアメリカに渡りゴシック体と呼ばれるようになった研究をしている。また、後藤は、アメリカの印刷技術が日本の近代印刷技術の礎を築いた研究をしている。石川は、日本語のゴシック体の創出に関する研究をしている。この3つの研究をつなげ、「和文ゴシック体創出と欧文書体との関連性研究」としてまとめたい。 今回の発表テーマは、和文ゴシック体の創出である。
著者
柳橋 達郎
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.5_91-5_100, 2017-01-31 (Released:2017-03-10)
参考文献数
25

日本の地方自治制度の枠組みが構築されるとともに,「自治体紋章」という新しいグラフィックデザインのジャンルが誕生したのが明治時代である。本研究では,明治期から昭和期における日本の自治体紋章を,三つの期間に区分し,その変遷を造形的観点から捉え,考察を加えた。特に,仮名や漢字をモチーフに,文字を構成要素とする「文字型」図案をその対象とし,各時代の特徴的な造形方法を抽出した。第Ⅰ期(1889-1914)は自治体紋章の黎明期,第Ⅱ期(1915−1945)は都市における紋章の概念が浸透し,その様式が確立されていく時代であった。第Ⅲ期(1946−1992)では,昭和の大合併と相俟って,全国規模で大量の紋章制定が進められた結果,造形表現が定型化し,画一的なデザインが誕生することとなった。そうした自治体紋章図案の変遷を体系的にまとめた結果,紋章図案の骨格を担う造形モチーフが,時代とともに移り変わってきたことを確認した。各時代の「型」が存在し,自治体紋章は,時代性を備えたシンボルマークであったといえる。
著者
田中 みなみ 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.33-40, 1993-07-25 (Released:2017-07-25)

平安時代から江戸時代にかけて描かれた絵画史料,絵巻物と屏風絵に登場する飲食器を対象として,その性状と用いられ方に着目しながら,歴史的変遷過程を観察・考察した。具体的には,絵画史料に登場する総計466件の飲食器について,(1)性状および使用状況による分類を行って量的データとして処理すること,ならびに,(2)個々の使用状況を観察し古文書の記述と合わせてその特性を考察することを行った。その結果多くの知見が得られたが,以下の3点は特筆すべき事項である。(1)高い高台を有する木椀の発生は器を手に保持して食する作法の確立に呼応しており,その時期は,およそ室町時代中期以降であると考えられる。(2)社会的階層の高低を問わず平安時代から江戸時代まで一貫してケとハレの生活の全面で広く利用されていた木椀は,いわば「飲食器を代表する生活のたの器」であったといえる。(3)「一器多用の器」として木椀が社会的身分を問わず長い時代にわたって使用されてきたのは,木椀が多様な用途に対して優れた対応力を有することを,その使用を通じ,人びとが広く認知してきたためと考えられる。
著者
李 志炯 崔 庭瑞 小山 慎一 日比野 治雄
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.5_101-5_108, 2017-01-31 (Released:2017-03-10)
参考文献数
18

文字の太さは人間の感情や態度などと関係がある。たとえば,文字を読む際に太さが変化しても文字の意味が伝わるのは同様であるが,受ける印象には差が生じる。そのため,正確なコミュニケーションの実現のためには文字の太さと印象の関係について検討する必要がある。そこで,本研究では明朝体,ゴシック体の2書体それぞれのひらがなとカタカナを対象に文字の太さ(レギュラー,セミ・ボールド,エクストラ・ボールド)による印象の変化についての検討を加えた。その結果,明朝体のひらがなの場合,レギュラーでは柔和性・高級感・女性的な印象などが,他の太さでは柔和性・重厚性・男性的な印象などが抽出された。一方,明朝体のカタカナ・ゴシック体のひらがなおよびカタカナの場合,レギュラーでは先鋭性・高級感・女性的な印象などが,他の太さでは先鋭性・重厚性・男性的な印象などが抽出された。これらの結果により,文字の太さごとの印象の特徴および文字の太さによる印象の変化が明らかになった。
著者
臼井 敬太郎
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第58回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.60, 2011 (Released:2011-06-15)

1950年代後半から1960年代後半にかけて、良好な眺望を誇る日本各地の観光地において床面が旋回する回転展望台が数多く設置された。いずれも、その機能的特徴からシンボリックな形態となり、モダンデザインでまとめられている。山麓から索道あるいは鋼索鉄道で連絡される展望台は、モビリティーの延長線上にある展望装置としてもダイナミックさを演出するモダンなスタイルが適していたといえよう。このような形式の展望台として初の事例である京山八方閣は、運営する岡山電気軌道の設計による回転機構が組み込まれていた。展望室床下には、レールが円形に敷かれ、その上をドーナツ状の展望室床面を支える台車が走行する構造であった。後に開業していく大手鉄道会社運営による回転展望台に先駆けて、地方都市岡山で回転展望台が実現されたのは、路面電車を運行させる軌道敷設技術、限られた経営資源を創意工夫で加工する車両改良技術の集積が最大限生かされたゆえであった。
著者
吉田 梨桜
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第69回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.54, 2022 (Released:2022-08-30)

ギャルたちは、カワイイやあげぽよの為に駆使したプロダクトや流行を生み出してきた。 見た目としてのギャルが衰退していった現在においてギャルはマインドとして残っており、大きな力を持っている。 ギャルのマインドを抽出しデザインに加わる事によって、どのような影響が出てくるだろうか。 本研究では、ギャルのマインドについて定義し、個人がギャルマインドを持つ為の方法論を検証し、 ギャルマインドの定義に沿ってデザインを実践する事によって社会や教育に変化を起こす事を提案する。
著者
上平 崇仁 鈴木 望果 星野 好晃
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第66回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.372, 2019 (Released:2019-06-27)

デザインにおいて、問題解決の前に、問題自体を問うことは、既にある価値観や信念に対して疑いの目を向け、思考の枠組みを切り替えるための重要であるが、あまり学習の中では重視されていない。本稿では、学校や企業などのデザイン学習者を主対象とした、多角的な視点から「問い」を生成するための発想ツールについて報告する。研究の目的は、前提を乗り越えるための問い方の技法に関しての検討を行い、誰でも使えるようなツールのデザインを行うこと、及び、そのツールの評価を行い、有用な知見を見出すことである。先行事例としてのHow might we Question、弁証法、ロールプレイイング法を組み合わせて、問いの発想ツール「委員長とギャル」の開発を行った。当該ツールの試験運用を行った結果、ロールプレイを行ったことで通常の発想法では生まれない突飛な発言が自然に生まれていたこと、一旦否定をはさむことで暗黙の前提を破壊することができたこと、この2点から参加者が楽しみながら発想に利用することができることを確認した。
著者
宮田 佳美 唐 士? 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第67回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.286, 2020 (Released:2020-08-27)

本研究は、テレビアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』の舞台である静岡県沼津市を事例として取り上げたものである。文献調査ならびに現地調査に基づき、これまで十分に考察されてこなかった「巡礼ノート」への記述内容の解析を通して、「聖地巡礼」が当該地域の地域資源の活用ならびに生活の質の向上にどのように寄与しているのかを把握し、地域活性化に資する「聖地巡礼」のあり方を導出することを目的とした。; 本研究においては、三の浦総合案内所に設置されている「巡礼ノート」に記述された内容をテキスト化し、それに基づき「聖地巡礼」の展開と特質を分析した。巡礼者は、事例に挙げた物語の追体験を通して、外来者の視点で地域資源の再発見・再認識を行う。また、巡礼者と地域住民との交流により、各種イベントなどが開催されることで、巡礼者の地域ファン化・地域住民の地元愛が高まることが確認された。さらに、巡礼者を類型化することにより、それぞれの類型の特質および傾向の変遷が明らかとなった。
著者
河瀬 絢子 崔 庭瑞 泉澤 恵 日比野 治雄 小山 慎一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.6_37-6_46, 2017-03-31 (Released:2017-05-10)
参考文献数
24

近年,OTC医薬品の利用が促進されているが,消費者は外箱記載情報をあまり読んでいないことが指摘されている。本研究では,このような消費者行動に対する文化的影響の有無について検討するため,日本人消費者とアメリカ人消費者のOTC医薬品選択時の視線を比較した。日本人・アメリカ人被験者は,3種類の日本製およびアメリカ製OTC医薬品外箱の中から最も購入したいと思った1品をそれぞれ選択した。課題遂行中,「製品名」,「成分」,「使用上の注意」などの10の外箱記載項目に対する視点の停留時間が計測された。その結果,日本人被験者は「製品名」,「キャッチコピー」を長時間注視し,アメリカ人被験者は「成分」を長時間注視していた。したがって,日本人被験者はアメリカ人被験者よりも「成分」等のリスク情報をあまり読んでいない傾向がみられた。以上の結果から日本人・アメリカ人被験者間で注視方法の違いがみられた背景には文化的な影響があり,OTC医薬品選択時の行動傾向にも現れていることが示唆された。
著者
富田 誠 菊地 英明 島田 奈緒 三宅 華子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究作品集 (ISSN:13418475)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1_40-1_45, 2022-03-31 (Released:2022-03-19)
参考文献数
5

本作品は、厚生労働省の和文ロゴタイプのデザイン及びその制作工程を記述した映像からなる。本ロゴタイプは書体、長体率、文字形状、角丸率などの造形要素ごとに比較検討を繰り返しながら制作された。本稿及び映像では、これらの比較結果や選定理由を一つ一つ記し、デザインの決定理由を示した。加えて、これらの説明順序と、実際におこなわれた制作過程の差を述べ、仮説的な形の生成とその形への違和感によってなされる修正の間にデザインの理由が立ち現れることに焦点を当てた。結果として、このデザインの修正がデザインの変数ごとに行われ、そこで述べられた理由が再構成されることでデザインの根拠として形成される過程を概念的に提示した。
著者
和田 歩美 島田 文美 渡邉 哲意
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第64回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.362, 2017 (Released:2017-06-29)

本制作は(株)水鳥工業と宝塚大学の産学連携プロジェクトとして、同社商品の擬人化キャラクターを制作、様々なメディア展開を通じて、キャラクターコンテンツの広報展開への活用から、企業商品の認知度、イメージアップを目指す企画である。同社は主な商品ターゲットを若年層と海外に焦点を当て、キャラクターを使用したマンガ、ラインスタンプ、グッズ製作などのメディア展開を通して広報ツールとして活用していく予定である。今回第1弾として、同社のフラッグシップモデルである「KOKON」(下駄)の擬人化を行なった。
著者
川端 久美子 中田 悠理 木谷 庸二
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第64回春季研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.236, 2017 (Released:2017-06-29)

ソーシャル・ネットワーク・サービス(以下、SNS)の利用者は年々増加している人気のサービスである。しかし、SNSは過剰に使用すると、SNS依存やSNS疲れなどの精神的病に掛かる危険性をはらんでおり、その要因のひとつとして、「いいね」やコメント等の投稿に対するリアクションが指摘されている。本研究では、SNSに於ける「いいね」に着目し、「いいね」がユーザーに与える心理的影響を観察し、SNS特有の楽しさを維持しながら、SNS依存やSNS疲れを誘発しない「いいね」のデザイン方法を明らかにする。
著者
王 淑宜 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.3_41-3_50, 2017-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
46

本研究は,台湾新北市に位置する三峽地域における内発的地域づくりの方向性を導出するための調査・研究の一環である。本稿においては,当該地域における藍染産業の歴史を概観・整理するとともに,藍染産業が三峽地域の社会に及ぼした影響を考察することを目的とした。文献調査ならびに古老らへの聞き取り調査に基づき,以下の各点を明らかにした。(1)当該地域の藍染産業の基礎は,中国福建省などから台湾に移住して来た人びとが故郷から持ち込んだものであった。(2)当該地域の人びとが良質な藍澱や藍染製品を製造する独特の技法を生み出し,台湾全土の他,中国や日本などへ輸出するまでに興隆した。(3)三峽地域の藍染産業が最も盛んになったのは1890年から1920年頃であったが,その後,化学染料の台頭や社会の変容を要因として急速に衰退した。(4)三峽地域の藍染産業の形成には,「互助精神」「結市」などの当該地域の人びとの結束が大きな影響を与えた。今後の地域づくりにあっては,上述した歴史を踏まえ,地域の展開を志向していくことが望まれる。
著者
呉 竹雅 青木 宏展 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.4_9-4_18, 2023-03-31 (Released:2023-03-30)
参考文献数
19

本研究は,明治時代における社会通念としての美術の形成過程を明らかにするために,計量テキスト分析を用い,新聞にみられる「美術」に関連した社会的出来事が,明治期の歴史的かつ社会的文脈でいかに当時の人びとに共有されたかについてそのプロセスを検証した。その結果,官製用語として誕生した「美術」に対する社会的認識の形成については,第一段階の明治10 年代までは実態,つまりものに重点を置き,第二段階の明治20~30年代においては価値観ないし価値体系を中心に,また第三段階の明治30 年代以降は概念,いわばジャンルを理解するといったプロセスで定着してきた。それは,エリート層を中心とする上流社会の人びとが概念からジャンルに,さらに価値観ないし価値体系という順序で「美術」を受け入れたのに対して,一般民衆はほぼ相反するプロセスに基づき美術を理解してきたといえる。また,明治政府が「美術」という概念を導入し,既存の絵画が「日本画」に統合されたことによって,日常生活における絵画の機能性・意味性は漸次に低下し,鑑賞対象となっていった。