著者
吉村 いづみ
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.54-72, 2020-01-25 (Released:2020-02-25)

第一次世界大戦時、戦争の長期化と国内の士気の低下を危惧した戦時内閣は、国内のプロパガンダを担う新たな組織である戦争目的国家委員会を1917年8月に設立した。この組織が行った映画に関与する活動は二つあり、一つは、組織内の部局である集会部と情報庁が協力して行った屋外での巡回上映活動、もう一つは、他の行政機関や民間の映画会社と連携した宣伝映画の製作であった。戦時貯蓄国家委員会と連携し、キンセラ&モーガン社と製作したKincartoonsシリーズは、娯楽性の高いアニメーション映画で、国民に戦時貯蓄証書の購入方法や、それがもたらす未来をわかりやすく説明した。本稿の目的は、戦争目的国家委員会が演説などで用いた宣伝方針とKincartoonsシリーズがどのように対応しているかを考察することである。キンセラ&モーガン社についての資料は殆ど残っていないが、Kincartoonsシリーズに共通する物語形式やキャラクターを注意深く分析した結果、そのメッセージは委員会が発行した印刷物やスピーチで用いられた宣伝方針に則していることがわかった。印刷物やスピーチで用いられた愛国心のレトリックは、物語形式やキャラクター、アニメーションや童謡の混合といった表現方法によって言語からイメージに変換されている。Kincartoonsシリーズは、わかりやすいメッセージによって、あらゆる世代の観客に受け入れられたと推察できる。