著者
吉村,功
雑誌
日本統計学会誌. シリーズJ
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, 2007-09

健康科学と統計科学は歴史的に相互の発展に寄与してきた.近年はその様相が多少変化してきて,健康科学から統計科学に提供される研究課題が以前より多種多様多量になっている.治療と薬剤開発のための臨床試験では非定型的な試験計画法,遺伝子解析では超多変量小標本での感受性遺伝子の検出法,創薬ではインシリコ試験の活用法,等々が求められている.計算機技術とマイクロテクノロジー等のハードウエア的新技術の開発が進み,新しい型のデータが提供され,生命への新しい切り口が必要になってきたからであろう.これらの要求に応えることで,統計科学は,従来からの数理モデル至上主義的ではない,たとえばFDRを指標としたSAM等の新しいデータ解析法を創り出し,内容を深めている.現時点ではこの統計科学の進展が健康科学に寄与をしているが,その趨勢を今後につなげるには,かつて統計科学が遺伝学に多くの問題を提起したように,健康科学に新しい課題を提起することが必要であろう.