著者
本田,孝也
雑誌
日本統計学会誌. シリーズJ
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, 2012-09

ORNL-TM-4017は1972年にオークリッジ国立研究所で作成されたテクニカルレポートである.黒い雨を浴びた被爆者について,急性症状を分析し,対照群と比較した.黒い雨を浴びた群では発熱,下痢,脱毛などの急性症状が高率に認められた,と報告している.2011年3月11日,福島第一原発事故が発生.放射能汚染の恐怖が日本中を覆う中,QRNL-TM-4017は偶然インターネット上から発見される.放射線影響研究所(放影研)はオリジナルデータから再現を試み,集計上の誤りを指摘した.しかし,同時に,放影研が13,000件を超える被爆者の黒い雨データを保有している事実が明らかとなった.
著者
吉村,功
雑誌
日本統計学会誌. シリーズJ
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, 2007-09

健康科学と統計科学は歴史的に相互の発展に寄与してきた.近年はその様相が多少変化してきて,健康科学から統計科学に提供される研究課題が以前より多種多様多量になっている.治療と薬剤開発のための臨床試験では非定型的な試験計画法,遺伝子解析では超多変量小標本での感受性遺伝子の検出法,創薬ではインシリコ試験の活用法,等々が求められている.計算機技術とマイクロテクノロジー等のハードウエア的新技術の開発が進み,新しい型のデータが提供され,生命への新しい切り口が必要になってきたからであろう.これらの要求に応えることで,統計科学は,従来からの数理モデル至上主義的ではない,たとえばFDRを指標としたSAM等の新しいデータ解析法を創り出し,内容を深めている.現時点ではこの統計科学の進展が健康科学に寄与をしているが,その趨勢を今後につなげるには,かつて統計科学が遺伝学に多くの問題を提起したように,健康科学に新しい課題を提起することが必要であろう.
著者
伊藤 孝一
出版者
日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌. シリーズJ (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.231-249, 2007
参考文献数
56
被引用文献数
2

統計理論と方法は日常生活,政府諸機関,各種産業のみならず,人文,社会,自然,の諸科学において用いられている.したがって,統計学の理論と方法の教育は初等・中等・高等教育や社会人の生涯教育において極めて重要である.この論文は,わが国及び海外諸国における今日までの統計学の理論と方法の発展ならびに統計教育の研究と実践の状況を概観し,21世紀への展望を試みることを目的としている.1945年以降,わが国の統計学研究者たちの理論と方法の発展への貢献は多大であることは事実であるが,統計教育の実態を顧みるとき,世界における先進国,発展途上国と比較して,極めて劣っていることを認めなければならない.この論文において,わが国の学校教育・社会人教育における統計教育改善のための若干の提言を行うことにする.
著者
矢野 浩一
出版者
一般社団法人日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌. シリーズJ (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.189-216, 2014-09

本稿では,粒子フィルタ,粒子平滑化,粒子フィルタによるパラメータ推定を解説する.粒子フィルタは非線形・非ガウス状態空間モデルの状態推定を実行するシミュレーションベースのアルゴリズムであり,1990年代初頭に発表された後,科学・技術の幅広い分野で活用されてきた.しかし,日本国内ではその知識が十分に普及しているとは言いがたいため,本稿では第2節で粒子フィルタとその適用例,第3節で粒子固定ラグ平滑化の基礎,第4節で粒子固定ラグ平滑化へのリサンプル・ムーブ法の適用,第5節で粒子フィルタと自己組織化状態空間モデルによるパラメータ推定,第6節で実物景気循環モデルの基礎と粒子フィルタを用いた状態推定例を解説する.