著者
吉玉 國二郎
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.S0011, 2010

多様な色調を発現しているアントシアニンについての研究は、本邦では20世紀の初頭に始まり、すでに一世紀を越えて受け継がれてきた。その中でも、花弁の多様な色調発現機構に関してはWillstatter等によって提唱されたpH説、柴田桂太による金属錯体説、それにRobinson夫妻によるco-pigment説が広く知られている。金属錯体に関しては、ツユクサから最初に単離されたコンメリニンについて林孝三を中心とした詳細な研究がなされ、近年その立体構造が解明された。その後、Co-pigmentに関しては、異分子間ではなく、同一分子内で自己会合を生じ、安定な色調を呈する色素が、1970年代キキョウやサイネリアの青紫花弁から相次いで単離された。これらの色素は、ほとんどすべてが2分子以上の芳香族有機酸によってポリアシル化されたアントシアニンであった。以後、この色素の構造と安定化機構に関してはNMRやMassで詳細に研究されている。PH説に関しては、以前は花弁搾汁を用いた研究が主であったが、今では単一細胞レベルでの測定が可能となり、花弁のpH変化がミクロのレベルで解明されている。最近、サントリーが最新のバイオ技術を駆使して作出した青バラが市場に出た。この成果は、アントシアニン研究者に将来への夢を与えてくれた。本講演では、研究の歴史を振返り、研究最前線を鳥瞰しつつ今後の研究方向について言及したい。