著者
渡辺 雄一郎 栗原 志夫 霧生 尚志
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.S011, 2004

植物にウイルスが感染すると、同類のウイルスによる再感染から免れることが知られている。われわれはシロイヌナズナ-TMV Cgの系をもちいて、この干渉作用と呼ばれる分子基盤を解析している。まずTMV-CgからYDと名付けた人工弱毒ウイルスを作成した。このYDは増殖量は少ないがちゃんと全身感染し、無病徴で成長に影響を与えない。この状態に強毒TMV Cgが2次感染してもまったく受け付けない。病徴がでないのみならず、RT-PCRによる検出でもその2次感染は検出できない。干渉作用はRNAの配列レベルでの類似性に依存して起こる状況からposttranscriptional gene silencing (PTGS) 現象との類似性が示唆されてきた。しかし、いくつかのPTGSに関与することがしられた遺伝子の変異体シロイヌナズナでもこの干渉作用が観察されることから、PTGSとの相違点が明らかとなった。シロイヌナズナでは種々のmiRNAが合成され、通常の発生制御などに関わることが示唆されてきた。われわれはCgとYDが感染したシロイヌナズナにおいてmiRNAの量に変動があるのかを調べた。その結果、多くのmiRNAがCgの感染によってその蓄積が上昇することがわかった。それに対してYDが感染したアラビドプシスではmiRNA量に変動は見られず、miRNAの量の変動と病徴発現との関連が強く示唆された。
著者
梶川 昌孝 加藤 彰 橋本 隆
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第48回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.067, 2007 (Released:2007-12-13)

ニコチンはタバコに含まれる塩基性アルカロイドであり、虫害からの化学防御を担う物質である。ニコチンは主に根部においてN-メチルピロリニウムカチオンとニコチン酸関連物質の縮合反応により生合成されると予想されるが、その生合成酵素遺伝子は同定されていない。我々は、この縮合反応を担う候補遺伝子としてイソフラボノイド還元酵素遺伝子ホモログのA622およびベルベリン架橋酵素遺伝子ホモログのNBB1の機能解析を行った。これらの遺伝子発現はニコチン生合成調節因子であるNIC遺伝子座の制御下にあり、かつ根特異的でジャスモン酸応答性を示した。RNAi法によりA622およびNBB1遺伝子の発現を抑制した毛状根、BY-2細胞においてはニコチンアルカロイド量が有意に減少した。BY-2細胞においてA622-GFPおよびNBB1-GFP融合タンパク質を発現させたところ、それぞれプラスチドおよび液胞に局在することがわかった。この結果から、ニコチン生合成はこれら2種のオルガネラで段階的に行われていることが示唆された。
著者
山田 健志 富士 健太郎 嶋田 知生 西村 いくこ 西村 幹夫
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.239, 2005

植物において,原形質膜のタンパク質がどのように液胞へ運ばれ分解されるかは明らかにされていない.そこで,原形質膜タンパク質の液胞への輸送を調べる目的で,シロイヌナズナとタバコ培養細胞(BY-2)におけるエンドサイトーシスを解析した.エンドソームは非常に早く液胞へ到達するので,通常の条件ではほとんど見ることができない.しかし,パパイン型システインプロテアーゼの阻害剤であるE64dでBY-2を処理すると,エンドソームが細胞礎質に大量に蓄積することが分かった.このことは,E64dがエンドソームと液胞の融合を阻害することを示唆している.原形質膜タンパク質(PIP2a,LTI6b)とGFPの融合タンパク質を発現するシロイヌナズナ形質転換株にE64dを処理したところ,GFP蛍光を持つエンドソームが蓄積し,融合タンパク質の分解が阻害された.さらに,ビオチン化阻害剤を用いて,蓄積したエンドソームに2つのパパインホモログ(ENP)が局在することを見つけた.以上の結果から,ENPは原形質膜タンパク質の液胞への輸送過程の一つであるエンドソームと液胞の融合に働くことが示された(1).<br>1) Yamada et al. (2004) Plant J., in press.
著者
森口 亮 金浜 耕基 金山 喜則
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第45回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.589, 2004-03-27 (Released:2005-03-15)

テロメアは染色体末端領域のことであり、染色体の安定的な維持に必須である。本研究ではテロメア長の制御機構を明らかにすることを目的として、まず永年生植物であるリンゴ・サクラを用い、植物個体内の齢に沿ったテロメア長の測定を行った。その結果、テロメア長は各部位間で一定の範囲内に保たれ、少なくとも20年間に渡る細胞分裂を経てもテロメア長は変化しないことが示された。このことより、細胞分裂に伴ってテロメア長が減少する動物と異なり、植物では厳密なテロメア長制御機構の存在が考えられた。 続いて、モデル園芸作物であるトマトを用い、テロメア長の制御に関わると考えられるテロメア結合タンパク質(TBP)のクローニングを行った。まず、トマトESTにおいてアラビドプシス、イネのTBPと相同性の高い配列を参考にして全翻訳領域を含むcDNAの単離を行った。この推定トマトTBP(LeTBP)は689アミノ酸から成り、C末端領域にMyb型DNA結合モチーフが確認できた。またLeTBP遺伝子はシングルコピーで存在し、解析に用いた全ての器官において発現がみられた。次に、Myb型DNA結合モチーフを含む部分タンパク質を大腸菌で発現させ、ゲルシフト解析に用い結果、LeTBPは2本鎖テロメア配列に特異的に結合するTBPであることが示された。
著者
中村 輝子
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.S24, 2003

高尾山麓の森林総合研究所多摩森林科学園のサクラのジーンバンク(桜保存林)および新たに開かれた農場を利用してシダレザクラのしだれ性のメカニズムに関する植物生理学的研究をおこなってきた。それまでの制御された実験室環境における幼植物を用いた実験とは異なり、フィールドの実験は、予期せぬ様々な困難を伴う一方、自然環境の中で樹木サクラを育てることにより、そのライフサイクルの進行に伴う動物すなわち、哺乳類、鳥類、および昆虫との様々な関係があり、またこれに関わるアレロパシー物質(クマリンなど)の関与もあることを学ぶことができた。この体験に基づいて「フィールドで植物生理学の実験をおこなうこと」および「フィールドにおけるサクラとそれをとりまく生物間の相互作用」につき論じたい。<br> フィールドにおけるしだれ性に係わるジベレリン等の植物ホルモンの研究は、さらにサクラの重力生物学の研究へと発展し、近年は、三次元クライノスタットを用いたサクラの形態形成とその重力センサーの研究がおこなわるようになった。ここでえられた宇宙環境の植物におよぼす影響をも合わせて論じたい。
著者
中 秀平 金子 康子 松島 久
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.590, 2003-03-27 (Released:2004-02-24)

埼玉大学周辺から単離した数種のミカヅキモを寒天培地上で培養したところ、増殖に伴い著しく移動する種と、1ヶ所で塊として増殖する種に分かれた。著しく移動する種はいずれも細胞外への粘液分泌に方向性があるなどの特徴が見られた。移動の著しい種であったClosterium acerosumを用い、走光性により寒天培地上を一方向に移動する際の粘液分泌と細胞内構造の変化を観察することを目的とした。寒天培地上にミカヅキモを1個体置き、7日間16時間明期、8時間暗期下で培養した。この時、ミカヅキモは約20細胞に増え、様々な方向へ移動していた。ここで、1方向からのみ光を当てると、ミカヅキモは走光性を示し、光の方向へ移動した。走光性により一方向へ移動しているミカヅキモの粘液分泌、ゴルジ体、液胞等の細胞内構造の局在と変動を明らかにするために、細胞の方向性を維持したまま、カルコフロール、キナクリン、DiOC6ニュートラルレッドなどで染色し、蛍光顕微鏡、光学顕微鏡を用いて観察した。粘液は進行方向に対し後方に向かって勢いよく噴出しており、前方では明らかに分泌量が少なかった。さらに寒天培地上で、走光性の方向を維持したまま化学固定した試料を樹脂包埋し、切片を作成した。この切片上で過ヨウ素酸‐ヘキサミン銀法により多糖成分を染色し、透過電子顕微鏡を用いて粘液の分泌過程の観察を行った。
著者
野村 裕也 植村 周平 間瀬 圭介 中平 洋一 吉岡 博文 椎名 隆
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第51回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0964, 2010 (Released:2010-11-22)

葉緑体は、光合成の他に、ホルモン合成や活性酸素種生成といった生体防御反応においても重要な器官であると考えられている。我々は、葉緑体が細胞内Ca2+シグナルを介して感染シグナルを素早く認識していることを見いだした。しかし、免疫応答における葉緑体の役割はほとんどわかっていない。これまでの研究から、葉緑体チラコイド膜に局在するCa2+結合タンパク質CASが、細胞外Ca2+による細胞質Ca2+シグナルの制御と気孔閉鎖に関与することを明らかにした。今回、免疫応答におけるCASの役割を調べるために、CASノックアウト変異体(cas-1)にPseudomonas syringae pv. tomato DC3000(Pst DC3000)を接種し、菌数増殖を測定した。その結果、cas-1ではPst DC3000に対して抵抗性が低下することがわかった。また、過敏感細胞死への影響を調べるためにPst DC3000(avrRpt2)を接種したところ、WTよりも細胞死が遅延することがわかった。さらに、Nicotiana benthamianaにおける CASサイレンシング植物体において、INF1、Cf-9/Avr9により誘導される過敏感細胞死が顕著に遅延することが明らかとなった。これらの結果から、CASは植物の生体防御反応において重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
著者
宮城 敦子 川合 真紀 内宮 博文
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第52回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0657, 2011 (Released:2011-12-02)

タデ科植物であるエゾノギシギシは葉にシュウ酸を高蓄積する多年生草本である。その一方で、そのシュウ酸蓄積機構に関する知見は少ない。当研究室におけるメタボローム解析の結果から、葉のシュウ酸の蓄積量とシュウ酸前駆物質(クエン酸、アスコルビン酸)との間に高い正の相関があること、茎の炭素化合物が葉のシュウ酸合成に影響を及ぼすことが示された(Miyagi et al, Metabolomics, 2010a, b)。そこで、本研究では茎の炭素源が葉のシュウ酸蓄積に及ぼす影響を調べるために13CO2を用いたトレーサー実験を行った。すなわち、13CO2処理した植物における13C-シュウ酸とその周辺代謝物の濃度をCE-MSで測定した。その結果13C-シュウ酸が葉に高蓄積すること、茎では13C-クエン酸等の濃度が減少する一方で新生葉のシュウ酸合成に茎の炭素化合物が使用されることが示された。さらに、高CO2がシュウ酸等の代謝物に及ぼす影響を調べるため、1000 ppm CO2および栄養塩処理個体の代謝物解析を行った。その結果、葉では栄養塩処理によって主にアミノ酸の濃度が増加するのに対し、CO2処理により有機酸が増加した。一方、CO2と栄養塩を同時に処理した個体にシュウ酸濃度の増加が見られ、バイオマス量が著しく増加した。
著者
渡辺 智 大沼 みお 田中 寛
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第49回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.0706, 2008 (Released:2008-12-18)

ヘム合成は生物にとって様々な生理機能に関与する代謝機能であり、特に光合成生物にとっては光合成電子伝達鎖や集光色素の構成経路としての重要な役割を持つ。ヘムはテトラピロール生合成経路を経て最終的にフェロキラターゼ (FeCh) によって合成される。高等植物ではテトラピロール生合成は主に葉緑体で行われることが示唆されてきたが、FeChの酵素活性はミトコンドリアからも検出されることから、その細胞内局在は議論されてきた。 単細胞紅藻Cyanidioschyzon merolaeは核、葉緑体、ミトコンドリアを一つずつ有する極めて単純な細胞をもち、真核細胞成立時の特徴を多く残した生物であることが示唆されている。我々はC. merolae におけるFeChの細胞内局在を明らかにすることを目的として、当研究室において開発されたC. merolaeへの一過的な遺伝子導入技術を用いてFeChの局在解析を行った。HAタグと融合させたFeChをC. merolae細胞に導入し、抗HA抗体で免疫染色後、蛍光観察した結果、ミトコンドリアからの蛍光が確認された。またFeChのアミノ酸配列に基づいた系統解析では、シゾンのFeChは緑色植物の葉緑体局在型FeChと異なるグループに分類された。これらの結果から光合成生物におけるFeChの細胞内局在と、その進化的意義について考察する。
著者
兵頭 洋美 佐藤 忍 岩井 宏暁
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第51回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0802, 2010 (Released:2010-11-22)

トマト果実の成熟過程に伴う果皮の軟化はペクチン等の分解に起因することが報告されている。しかし、果実内部では種子形成が同時に進行していることからも細胞壁の分解のみでなく、合成も必要であると考えられる。本研究では、果実成熟過程におけるペクチンの合成・分解に関与する遺伝子の発現および酵素活性を組織別に比較することで、果実全体のペクチンの総合的な変化を考察した。ペクチン分解酵素であるポリガラクツロナーゼ(PG)、ペクチンメチルエステラーゼ(PE)に関しては、果皮・隔壁においてBreaker以降で強い発現・活性がみられた。またPEは果実内部の組織で発現・活性がみられず、PG阻害タンパク質であるPGIPは、外果皮・隔壁で恒常的な発現がみられた。一方、シロイヌナズナでペクチン合成に関わるガラクツロン酸転移酵素(GAUT1)と高い相同性を示すトマトの遺伝子(LeGAUTL)は、果実成熟過程に伴う発現の増加がみられた。以上からトマトの成熟過程において、ペクチンの分解とともに合成や分解抑制も同時に行われている可能性が示唆された。またペクチン性多糖は、同じ成熟過程にある果実においても、その分解により果皮の軟化に関与するとともに、外果皮や隔壁では合成により果実の形状維持に関わること、果実内部の組織では分解抑制により種子形成の保護に関わることが考えられ、組織の性質や機能に影響を与えていると思われる。
著者
横田 孝雄 柴田 恭美 野村 崇人
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第50回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.0708, 2009 (Released:2009-10-23)

維管束植物のうち裸子植物と被子植物の内生ブラシノステロイドはよく研究されており、茎葉、根、種子、花粉などから多種類のブラシノステロイドが同定されている。しかしながら、維管束植物のうち進化上、下位にあるシダ類の内生ブラシノステロイドについては確実な証拠が得られていない。本研究では、数種のシダ類についてガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC-MS)を用いて内生ブラシノステロイドの分析を行った。調べた組織は、スギナ(Equisetum arvence)の栄養茎と胞子茎、ゲジゲジシダ(Thelypteris decursive-pinnata)の葉、ワラビ(Pteridium aquilinum)の葉、ゼンマイ(Osmunda japonica Thunb.)の葉である。その結果、すべての組織からブラシノステロイドが同定された。活性ブラシノステロイドとしては、すべての組織からカスタステロンが同定されたが,ブラシノライドは検出されなかった。カスタステロンの前駆体としては、種子植物と同じ種類のブラシノライドが同定された。各シダの内生ブラシノステロイドの特徴についてはシロイヌナズナと比較しながら議論したい。
著者
本間 環
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.S25, 2003-03-27 (Released:2004-02-24)

現在、スギ花粉は日本の春先における代表的なアレルギー疾患となっている。これはまさに植物が他生物(動物)に対して影響を与えている例である。スギ花粉症を解決するためには医学的あるいは植物生理学的な対策が必要とされている。しかし、現在でもスギ花粉症の有効な治療や発生源の対策は実用化されていない。スギの材は建築材や家具材として価値が高い。そのために、スギは日本の有用樹木として盛んに植林されてきた。この際に必要となったのは、安定した種子の供給であった。種子生産の技術として植物ホルモンの一種であるジベレリン(GAs)を処理することで花芽形成の誘導が行われていた。しかし、植物ホルモンとスギの花芽形成のメカニズムとの関連は不明であった。そこで、スギに含まれる内生植物ホルモンの分析を行った。その結果、花芽形成の直前にGA3の含有量が著しく増加することが明らかとなった。このことから、GAsはスギの花芽形成に関与していることを示唆している可能性が示された。このことは、スギ花粉の発生源の対策としてGAsを制御すればスギの花芽形成を抑制できる可能性をも示唆していた。そこで、GAsの生合成阻害剤の処理を行った。その結果、スギの花芽形成は顕著に抑制された。ここでは、植物の成長調節を用いてスギ花粉の飛散防止を目的とした研究について、実験室レベルからフィールドレベルへの応用および実用化について紹介する。
著者
渡辺 雄一郎 栗原 志夫 霧生 尚志
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第45回日本植物生理学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.S011, 2004-03-27 (Released:2005-03-15)

植物にウイルスが感染すると、同類のウイルスによる再感染から免れることが知られている。われわれはシロイヌナズナ-TMV Cgの系をもちいて、この干渉作用と呼ばれる分子基盤を解析している。まずTMV-CgからYDと名付けた人工弱毒ウイルスを作成した。このYDは増殖量は少ないがちゃんと全身感染し、無病徴で成長に影響を与えない。この状態に強毒TMV Cgが2次感染してもまったく受け付けない。病徴がでないのみならず、RT-PCRによる検出でもその2次感染は検出できない。干渉作用はRNAの配列レベルでの類似性に依存して起こる状況からposttranscriptional gene silencing (PTGS) 現象との類似性が示唆されてきた。しかし、いくつかのPTGSに関与することがしられた遺伝子の変異体シロイヌナズナでもこの干渉作用が観察されることから、PTGSとの相違点が明らかとなった。シロイヌナズナでは種々のmiRNAが合成され、通常の発生制御などに関わることが示唆されてきた。われわれはCgとYDが感染したシロイヌナズナにおいてmiRNAの量に変動があるのかを調べた。その結果、多くのmiRNAがCgの感染によってその蓄積が上昇することがわかった。それに対してYDが感染したアラビドプシスではmiRNA量に変動は見られず、miRNAの量の変動と病徴発現との関連が強く示唆された。
著者
浅野 尚人 戸城 達也 神澤 信行
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第52回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0902, 2011 (Released:2011-12-02)

オジギソウは熱や接触に応答し、屈曲運動を行う。この運動には水の移動が関与しており、主葉枕下部から急激に水が放出され膨圧が低下することで屈曲運動が起こると考えられている。このような素早い水の移動にはアクアポリンの関与が考えられた。当研究室では計7種のPIPアイソフォームが単離されており、それぞれの水透過性が測定されている。運動細胞で発現、機能しているPIP遺伝子を特定するために実生オジギソウの各部位からcDNAプールを作製し、real-time PCR及び半定量的PCRによって発現量の解析を行った。その結果、主葉枕にはPIP2;2、PIP2;3遺伝子が発現していることが示唆された。さらに、主葉枕を下部と上部に分割して解析した結果、PIP2;2遺伝子が下部に多く発現していた。屈曲運動は接触して数秒で反応することから、PIPのリン酸化及び脱リン酸化による活性制御が考えられ、本研究ではこれらの阻害剤を用いて機能解析を行った。結果、PIP2;2は脱リン酸化阻害剤により水透過性が向上した。リン酸化される個所として、他の植物同様PIP2;2 にはC末端にPKCリン酸化モチーフが保存されている。そのため、PKCによる活性への影響を観察するために変異体を作製した。その結果PIP2;2の3つのリン酸化モチーフは全てPKCのリン酸化による活性調節を受けていることが示唆された。
著者
中山 北斗 山口 貴大 塚谷 裕一
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第51回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0381, 2010 (Released:2010-11-22)

アスパラガス属(Asparagus)は葉が鱗片状に退化し、本来は側枝が発生する葉腋の位置に、擬葉と呼ばれる葉状器官を形成する。擬葉は主たる光合成器官としての役割も担っており、形態学的および生理学的に葉との類似点を有する。擬葉は古くから形態学者の興味の対象であったが、分子遺伝学的背景はおろか、その詳細な発生過程も未だ明らかとなっていない。属内においてその形態は多様化しており、アスパラガス属の擬葉は、植物におけるシュート構造の多様化の過程を、発生学的および進化学的観点から明らかにすることが可能な、独自性の高いモデルである。そこで本研究では、特異なシュート構造である擬葉の発生、およびその多様化機構の理解を目的として研究を行った。これまでに私たちは、属内の系統関係において基部に位置し、擬葉の形態が広卵形のA. asparagoides を用いて、擬葉は葉とも茎とも異なる独自の内部構造を有すること、擬葉では葉の発生に関わる遺伝子群のオーソログが発現することを明らかにしてきた。また、擬葉の形態が棒状のA. officinalisではこれらの発現パターンが変化していることを明らかにし、現在その原因についても解析を進めている。加えて、これらの遺伝子の擬葉における機能を解析するために形質転換系の構築を行っており、本発表ではそれらを含めた現時点でのデータに基づき、擬葉の進化発生機構について考察する。
著者
Usuda Hideaki
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.528, 2004

The research of simultaneous measurements of CO<SUB>2</SUB> exchange and growth have been continued to evaluate the impact of photosynthesis on biomass. Plants of radish, cv White Cherrish with big storage root were grown for 6 days under 4 different conditions (1: ambient CO<SUB>2</SUB> of ca. 380 ppm and 23 molE/m<SUP>2+</SUP>/day, 2: elevated CO<SUB>2</SUB> of ca. 750 ppm and 23 molE/m<SUP>2+</SUP>/day, 3: ambient CO<SUB>2</SUB> of ca. 380 ppm and 15 molE/m<SUP>2+</SUP>/day, 4:elevated CO<SUB>2</SUB> of ca. 750 ppm and 15 molE/m<SUP>2+</SUP>/day) and the rates of CO<SUB>2</SUB> exchange were monitored continuously during whole periods of growth analysis. The results of growth analysis of RGR, NAR, LAR, LWR, SLA, leaf area, rates of photosynthesis and respiration, and water use efficiencies under 4 different conditions will be discussed comparing the results with radish cv. Kosena with small storage root which was presented last year.
著者
伊藤 剛
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.S053, 2006

イネゲノム全塩基配列決定の完了にともない、更なる実験やデータ解析の基礎情報を作成するため、全ゲノム配列を用いたアノテーションを行った。配列決定後のゲノム解析を良質のものとするには、このアノテーションは高精度でなければならないが、一方で遺伝子予測プログラムに基づくような自動アノテーションには多くの誤りが含まれることが知られている。そこでまず完全長cDNAやESTを最大限利用し、転写の証拠のある領域を中心に遺伝子を同定した。また、自動アノテーションの専門家による精査(いわゆるキュレーション)を全遺伝子に渡って短期間で大規模に行うため、ジャンボリー型のアノテーション会議(The Rice Annotation Project Meeting)を開催し、同定された遺伝子座の全てに亘って可能な限り機能情報を確定した。この結果はRAP-DBとして公開されている。このアノテーション結果に基づき、イネとシロイヌナズナの全タンパク質を用いて配列比較を行ったところ、種分岐後にそれぞれの種で特異的な遺伝子重複は多数あるものの、現在保有している機能ドメインの数や種類、さらにはタンパク質をコードしている遺伝子数は大きく違わないことが明らかになった。加えて、野生稲のBAC端配列を日本晴のゲノムと比較することにより、栽培稲では失われた遺伝子が野生稲には相当数あることも示唆されているので、このような多様性解析についても併せて報告する。
著者
岩科 司
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.S23, 2003-03-27 (Released:2004-02-24)

フラボノイドは陸上植物のコケ類、シダ類、裸子および被子植物に広く分布する化合物群で、これまでに5,000種類近くの物質が報告されている。しかしながら、植物におけるこれらの成分の機能についてはほとんどわからないままであった。唯一古くから知られていた機能は色素として花に含まれるアントシアニン系フラボノイドの花粉媒介のための昆虫や鳥の誘引作用であった。これらの昆虫誘引についてはその後、アントシアニンばかりでなく、フラボンやフラボノールのような、ほとんど可視域に吸収をもたないフラボノイドも昆虫の誘引に役立っていることが判明している。しかし、花以外の葉や根などに存在するフラボノイドの機能については長い間あまり知られていなかった。近年、やっとこれらの機能に関する研究が本格的になり、フラボノイドがそれを合成する植物と他の生物との間に重要な機能を果たしていることがわかってきた。例えば、カンアオイ類やミカン科植物に含まれるフラボノイドのチョウに対する産卵刺激作用、クワの葉などのフラボノイドの昆虫に対する摂食刺激作用、マメ科植物の根などのフラボノイドの根粒菌誘引作用、またその逆の抗菌作用などである。さらには最近、生物間の作用ではないが、葉に含まれるフラボノイドについて、生物に有害な紫外線から植物を保護する機能も実証された。本講演では、これまでに判明しているフラボノイドの植物における機能について紹介する。