著者
吉田 孝宣 岡崎 伸生 荒木 英爾
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.167-170, 1988

必須脂肪酸欠乏状態にあるドンリュー系雄ラットに腹水肝癌細胞AH130(以下,無脂肪食AH130細胞)を継代移植して,その脂肪酸構成の変化を観察し,宿主の栄養環境の変化が腫瘍細胞に与える影響について検討した。その結果,無脂肪食AH130細胞の脂肪酸組成は普通食で飼育したラットに移植したAH130細胞のそれに比べ,18:1(n-9)の増率と18:2(n-6)の減率,および,20:3(n-9)の出現と20:3(n-6)の消失が見られた。一方,無脂肪食で飼育したラットの肝と血清では,これらの変化に加え20:4(n-6)の減率も認められた。無脂肪食AH130細胞に見られたこれらの脂肪酸組成の変化は,宿主の肝と血清における変化と同方向の変化で,AH130細胞の脂肪酸組成は宿主であるラットの栄養環境の影響を強く受けていることを示している。しかし,20:4(n-6)が宿主の肝においてのみ有意に減率していた事実は,AH130細胞独自の脂肪酸代謝機構の存在を示唆しているものと推定される。