著者
吉田 恒夫
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.55-60, 1980
被引用文献数
1

繊維を横方向に1μmの厚さにカットし, 紫外線吸光度を測定して, アントラキノン (AQ) 添加, 又は無添加時の松材のソーダパルプ化における脱リグニンの相違を研究した。AQを添加した場合, 二次膜と中間層共に脱リグニン度が増加した。これは春材, 秋材に共通して言えることである。いかなる脱リグニンレベルにおいても, リグニン除去率は二次膜, 中間層共に同一であった。Ross図表が示すように, AQによる脱リグニンの促進により, 全リグニンレベルにおいて高収率パルプが得られた。紫外線吸光度は, Halseリグニンと高い相関 (99%) を示した。<BR>1970年代初期にはBachとFiehnにより, また近年ではHoltonによってAQとその誘導体の多くは, ソーダパルプ化, クラフトパルプ化共に脱リグニン促進効果のあることが見出された。この脱リグニン促進効果によって, 全リグニンレベルにおいて高収率パルプが得られる。脱リグニンの促進と還元性末端基の酸化による炭水化物の安定化により, 収率が向上する。AQ添加により黒液の酸化還元電位が低下する。これは脱リグニン促進の間接的証明となる。もし1個の β-0-4結合を持つ分子を, アントラキノンモノスルホン酸塩で処理したならば, フェノールユニットの側鎖において, CαとCβの間で開裂が起こるであろう。この開裂は, 同一リグニン度で比較すると, ソーダパルプ化の場合には起こらなかった。本研究の目的は, 紫外線ミクロ分光光度法を用いて, AQ添加又は無添加時のソーダパルプ化におけるPinus silvestrisの仮道管細胞膜の脱リグニンを検討することにある。この方法を用いて繊維横断面を分析することにより, 二次膜と中間層について個々に脱リグニン度を測定出来る。