著者
後藤 一貴 常見 泰弘 吉田 智恵 金谷 洋明 平林 秀樹 春名 眞一
出版者
Society of Oto-rhino-laryngology Tokyo
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.198-204, 2014

口腔期の嚥下を意識しない場面での唾液嚥下は可能なものの, 意図的状況での嚥下が不可能な「口腔期嚥下失行」が疑われた症例を経験した。 患者は57歳, 男性。 現病歴は, 意識障害にて救急搬送。 精査にて前頭葉神経膠腫の診断となった。 放射線化学療法中に嚥下障害, 構音障害が出現し当科を紹介受診した。 Japan Coma Scale 1, Broca 失語を認めた。 口腔内の感覚運動麻痺はなく, 唾液の口腔内残留も認めなかった。 嚥下内視鏡検査では, 声帯麻痺はなく, 喉頭蓋谷, 両側梨状窩凹への唾液貯留も認めなかった。 着色水の指示嚥下では, ホワイトアウト, 咽頭の収縮, 喉頭挙上を認めたが, 着色水は口腔内に留まったままで嚥下することはできなかった。 嚥下造影検査では, 舌咽頭の明らかな麻痺はないが, 咽頭へ送り込みができなかった。 しかし, 嚥下を意図しない場面では, 唾液嚥下は可能であった。 嚥下関連筋の運動障害, 舌咽喉頭の感覚障害はなく, 意図的な場面での送り込み障害をきたしている, 「口腔期嚥下失行」が疑われた。 責任病巣は, 両葉の一次運動野から視床に至る経路での障害と推定された。 環境整備, 模倣によるリハビリテーションにて一部の経口摂取が可能となった。