著者
吉田 統子 Yoshida Motoko ヨシダ モトコ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
no.1, pp.87-95, 1996-03

人が様々な経験を通じて、自分自身の中に両極的な考えがあると見出していく過程を「視点の深化の過程」としてとらえ、その過程の具体的な在り方を示すために重症心身障害児を育てる母親六名にインタビュー調査を行ったが、本論文ではそのうちの一名に焦点をあてて考察を行った。その母親は、障害をもつ子どもとの生活を通じて様々な経験を重ねていったが、結局はもともと抱いていた考えにそれほど大きな変化はなかった、と語っており、そのため、一見するとそれほど視点が深化しないような過程を経たと感じられる事例である。しかしながらこの過程は、視点が深化しなかったのではなく、視点が深化することによって得た観点をもって、一方の考えを意識的に改めて選んでいく過程ではないかと考察した。そこで、Cβ.ユングが論じている「意識的で成熟しな観点」をもって「自分自身の運命を意図的、意識的に受け入れる」女性という概念を用いることによってさらにその考察を深めた。さらに、ユングの意識の「発展・分化」の様子に関する考えをもとにして「視点の深化の過程」とは円環的な軌跡を辿る過程であろう考え、この過程をに新たな一段階を加えて再定義した。