著者
吉野 樹紀
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.48, no.8, pp.1-10, 1999-08-10 (Released:2017-08-01)

筒井康隆の『夢の検閲官』について、「反転」という視点から、その言葉のしくみについて論述した。反転とは、途中まである一つの読みに寄り添っていた読者の読みが、ある時を境に反転させられることをいう。それは、筋の展開や、構造としてあるのではなく、表層の構造を支えている言葉のしくみに織り込まれている。その言葉のしくみに着目して読むことが、文学を教室で読むことにとって重要な課題なのである。
著者
吉野 樹紀
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.1-14, 1985-03-10

古今的な和歌は仮名で「書く」ことによって多義的なものを自覚的に方法化したものである。いうまでもなく、書かれたものは前と後が有機的に関連するという特性を持つ。ここに至って、和歌は三十一文字というひとまとまりの言葉の全体の中で、掛詞や縁語といった範列的に構成された喩的な言葉を響きあわせることによって多義的な表現を作り出し、前後をとらえかえしながらイメージを湊合化する方法を確立した。これは、言葉の時間的な流れを破壊して、上と下とを響きあわせるという異化作用に他ならない。いいかえれば、和歌の内部における言葉の対話性が古今的な表現の特質なのである。