著者
吉野 馨子
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.1-31, 2021-02-15 (Released:2022-03-10)
参考文献数
22

浜/地域で生きることについて、宮城県雄勝町A浜での暮らしのなりたちとその変化から考えた。漁場は豊かながら港に恵まれなかったA浜では、磯での小漁からの漁獲物の加工・行商と、船員になることが主要な現金稼得手段となった。その傍ら食料確保のための農業生産も活発で、塩害に強い作物の模索から特産品もうまれた。山からは薪、建材、船材が利用され生業は複合的であった。浜での暮らしの生命線である磯の管理と船出し、飲料水と薪の確保は地域で協同されたが、それ以外は近い親戚内での個人的な協力に依っており、またそれは地域での発言権を高めるためにも利用されてきた。協同の必要性は徐々に薄れ地域の主な機能は磯の管理と祭礼に縮小しているが、磯資源は地域福祉の源泉でもあり続け、協同性と個人主義のせめぎ合いの積み重ねから震災時には目を見張る協働が実現された。進行する漁業離れは目前の豊かな磯の恵みを享受する機会を減じており、地区離れは地区での生活の存続に危機感を与えているが、その感じ方は個々に異なり、個人主義的態度が優先されがちである。こんにち生活の存立にとっての地域社会の不可欠性は疑問視され、農山漁村でもゆっくりとその考え方が受け入れられつつある。しかし私たちの生きる「場」は地べたからは離れられない。共感と歓待の視点から改めて地域社会を再構築できないか。そしてそこには浜/地域で培われてきた資源が大きな役割を果たすだろう。