著者
比嘉 優子 仲田 美代子 前川 奈津子 名嘉村 博 伊良波 知子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.694-694, 2003

【はじめに】人がその生涯を終える際には、病気であるないに拘らず終の棲家でと願う人が多いのではないだろうか。当院では、住み慣れた自宅での最期を望む患者やその家族に対して在宅医療部を中心に医療サービスを提供してきた。今回末期肺癌患者の在宅での終末期医療に関わった。この症例を通して得た理学療法士(以下PT)としての今後の終末期医療への介入について若干の考察を加えて報告する。【症例】2001年6月現在89歳男性。1997年85歳に肺癌と診断される。既往歴として58歳に脳血管障害にて左片麻痺となる。主な介護者は同居している長男と孫娘であった。【経過】2001年6月頃から咳が出現。8月当院にてX-P上で右上肺野の腫瘤拡大が確認された。その際、家族に対して医師より次の点について確認と説明が行われ、後日返答をもらうこととなった。確認点は1)本人への告知の件、2)終末期を含めた今後の治療方針であった。また、本人の意思確認が大切なことも重ねて説明された。9月頃から発熱を繰り返す。12月痰量・血痰も増加。呼吸困難感も出現したため在宅酸素療法開始。家族より本人への病名告知は行わないこと、終末期は自宅で迎えたいとの返事を得た。介護には同居家族3人と患者の子供5人があたる事になった。2002年3月痰の自力喀出困難出現し、睡眠や食欲が阻害された。その為、排痰目的にて週6回の訪問理学療法を開始。排痰はSqueezingにて両側臥位行い、休憩を入れ20分程度とした。その後は睡眠・食欲ともに改善され、発熱もなくなった。訪問リハを開始して2週間目から本人の希望により坐位訓練や車椅子移乗も行った。また本人および家族の希望を受け4月には2回のドライブを決行した。5月5日午後7時に夕食をいつものように摂取。午後9時喀血しているのを発見され訪問看護と当院在宅医療部に連絡が入り、直ちに医師も往診、家族と相談後そのまま自宅にて経過をみることを確認。午後11時20分自宅にて永眠された。【考察】在宅末期肺癌患者に対し訪問理学療法を行った。当初排痰を中心に行った結果、日常生活の苦痛であった咳・痰に悩まされる事がなくなった。そして終末のその日まで睡眠や食欲も安定し、熱発もなかった。また、疲労度からPTが躊躇していた坐位や車椅子移乗を患者自ら望むようになった。それが可能になったことで、さらに次の要望が挙げられるようになった。PTが関わる前は寝たきりであった終末期の患者が、住み慣れた我家内を車椅子で移動するようになり、楽しみとしていたドライブも施行できるようになった。終末期医療は第一に痛みの緩和にポイントがおかれる。しかしホスピスケアにおいては人間らしく生きる事にも重点が置かれる。今回この症例を通して痛みだけでなく、住み慣れた自宅という場も含め、限られた時間の中でどこまで個々を尊重し人間らしく生きるかという点について、在宅終末期にも理学療法的アプローチを踏まえたリハビリテーションの可能性を確認する事ができた。