著者
良永 真隆 林 睦晴 横井 博厚 藤原 稚也 吉川 大治 向出 大介 杉下 義倫 鎌田 智仁 伊藤 丈浩 多賀谷 真央 井澤 英夫
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.10, pp.1213-1218, 2015 (Released:2016-10-13)
参考文献数
10

ビタミンB1欠乏症, 特に衝心脚気は現代では非常に稀な病態であるが, 1990年代から食生活の変化に伴い若年者に加え, 高齢者の症例も散見されるようになった. 症例は意識障害にて救急搬送された中年男性で, 胸水・腹水含め, 全身性の著明な浮腫を伴っていた. 心臓超音波検査では重度のび漫性左室収縮低下を認めたが, 生活歴・食事歴よりビタミン欠乏を疑い, ビタミン補充治療を施行するも改善に乏しかった. ビタミン利用障害の可能性も考慮し, 大量補充療法を施行したところ, 速やかな意識状態の正常化を認め, 浮腫も改善した. 最終的には心機能も正常範囲に回復し, 社会生活への復帰が可能となった. 改善後, ビタミンB1負荷検査にて, ビタミンB1の利用障害が認められた. 本症例のような偏食を伺わせる生活歴を持った原因不明の循環不全においては, 高拍出性心不全の病態でなくても, 脚気心の可能性を念頭に置く必要がある. 通常のビタミン補充療法で改善を認めない場合でも, ビタミンB1の利用障害が存在している可能性を考慮し, 典型的なWernicke脳症の症状を呈さなくても, 心不全に意識障害を併発している場合には, 早期から高用量のビタミンB1投与も検討する必要があると考えられた.