- 著者
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藤井 小羊
吉田 真司
呉屋 和美
石川 あずさ
- 出版者
- 九州理学療法士・作業療法士合同学会
- 雑誌
- 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
- 巻号頁・発行日
- vol.2008, pp.27, 2008
【はじめに】<BR> 近年、脳性麻痺児治療でKetelerは、ICFでの活動や参加の観点で両親、子どもと協同して目標設定する過程を述べている。<BR> 今回、機能的脊髄後根切断術(FPR)後の痙直型両麻痺児に対する目標設定と治療継続により日常生活動作改善が得られたので報告する。<BR>【症例紹介】<BR> 6歳1ヵ月。在胎28週、体重1,140gで出生。粗大運動能力分類システム(GMFCS)レベル4。MRIで両側側脳室後角にPVL所見あり。<BR> 平成19年4月12日、満5歳1ヵ月時、FPR施行。<BR>【目標設定】<BR> 家族の要望を聴取し、家族と協同して、1.円滑な床上移動、2.歩行器歩行の獲得、3.椅座位での円滑な両手活動、4.靴下及び靴の着脱を目標に設定した。<BR>【評価】<BR> 1.姿勢筋緊張:左上下肢により高緊張が見られた。上部体幹の屈曲に伴い、両上肢は肩関節屈曲・内旋、肘関節屈曲、両下肢は伸展・内転・内旋方向への高緊張が見られ、手関節、手指の選択的な運動が困難であった。<BR> 2.運動機能:バニーホッピングでは、上部体幹の屈曲に伴う両上肢の引き込みにより頭部から左前方へ崩れる傾向が多かった。また椅座位での机上活動では体幹が安定せず、空間操作は難しかった。<BR>【経時的評価】<BR> 術前、術後1ヵ月から1ヵ月毎にGMFM-88を実施、測定毎に各領域の%点数とGMFM-66を算出した。同時に術前、術後3ヵ月毎にPEDIを実施、測定毎に機能的スキルの各領域の尺度化スコアを算出した。<BR>【治療】 <BR> 下部体幹を基点に、自己身体軸を中心とした座位及び立位活動で、手関節、手指の選択性と視覚との協応を促した。課題は粘土を包丁で切る等、両手動作課題の中で利き手と非利き手の関係を意識した。<BR>【治療目標の達成度】<BR> 運動機能:床上での姿勢変換が安定し、歩行器歩行では円滑な下肢の分離性、交互性が得られ、室内では実用的になった。術前、術後12ヵ月のGMFM-88の各領域での%点数を比較すると四つ這いと膝立ち領域で45.24%から73.81%、立位領域で7.69%から25.64%、GMFM-66では43.79±1.05から48.97±1.17へと向上し、統計上有意差が認められた。<BR> 日常生活動作:入浴では椅座位にて、身体を完全に洗えるようになり、更衣では靴下及び靴の着脱が可能となった。術前、術後12ヵ月のPEDIの機能的スキルでの各領域の尺度化スコアでは統計上有意差は認められなかったが、セルフケア領域は61.8±1.6から63.2±1.7、移動領域は40.3±2.3から42.4±2.3、社会的機能領域は65.1±1.6から66.2±1.7へと向上した。<BR>【おわりに】<BR> 今回、痙直型両麻痺児に対し、一定の機能的改善が得られ、一部の日常生活動作改善が得られた。それらを日常生活に定着させるにはその機能が実際に遂行される環境が必要であり、将来を見据えた治療を展開していくことが今後の大きな課題である。