著者
長内 宏之 村瀬 洋介 中島 義仁 浅野 博 味岡 正純 酒井 和好 鈴木 文男
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.SUPPL.3, pp.S3_92-S3_97, 2013 (Released:2015-01-09)
参考文献数
4

背景 : WPW症候群の副伝導路 (AP) に対するアブレーション時に, いったん消失したAP伝導が再開するという現象が時として見られるが, 多くの場合APの不完全焼灼に起因する「単純再発」と考えられる. 一般に, アブレーションによるΔ波の消失はAPの離断を意味するものと考えられるが, ほかの可能性として, 例えば, 焼灼によってAPの不応期が延長しその値が患者の洞周期長よりも長くなった場合, 洞インパルスはAPを伝導することが不可能となり (機能的ブロック) , Δ波は消失し得るであろう. しかしながらこれまで, そのような状況は想定されてこなかったと思われる.  症例 : A型WPW症候群の患者 (31歳, 男性) に対しアブレーションを施行した. CS電極記録にて順伝導・逆伝導ともに最早期部位は僧帽弁輪側壁部であった. 経中隔弁上アプローチにより, 洞調律下で心室最早興奮部位にて通電を行い, 14秒後にAPの伝導ブロックをきたした. 60秒間の通電の後も伝導ブロックが維持され器質的ブロックと考えられたが, 右室のカテーテル刺激によると思われる心室性期外収縮を契機にΔ波が再出現した. 出現したΔ波が持続したため, 初回の通電部位に近接する前壁側部位にて追加通電を行ったところAP伝導は消失した. その後, Δ波の再発は見られなかった.  総括 : 高周波通電によりΔ波が消失したWPW症候群の 1例において, 心室性期外収縮を契機にΔ波が再出現した. Δ波再出現の機序として「房室結節を順伝導した洞インパルスが逆行性にAP内へ進入し, その逆行性不顕伝導の効果によりAPの順伝導が機能的にブロックされていた (linking現象の持続による機能的ブロック) . この状況下にて, 心室性期外収縮による“peeling-back効果”によりAPの不応期が左方へ移動し (不応期の短縮と同等) , AP順伝導が可能となってΔ波が出現した」という説明が可能であると考えられた.
著者
長内 宏之 鈴木 文男 中川 貴史 中村 健太郎 瀬崎 和典 中島 義仁 浅野 博 味岡 正純 酒井 和好
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.46, no.SUPPL.3, pp.S3_54-S3_60, 2014 (Released:2015-10-26)
参考文献数
6

はじめに : 電気生理検査 (EPS) にて高度心房内ブロック (Ⅱ度~Ⅲ度ブロック) の出現を認めることは極めて稀である. 今回われわれは心房粗動 (AFL) 時に高度心房内ブロックの出現を認め, さらにブロックの出現に伴う心房波間隔の延長時に心房波高が著明に増大するという稀な所見を呈した症例を経験した. 症例 : 通常型AFL症例 (83歳男性) の電気生理検査時, 冠静脈洞 (CS) 入口部領域に3峰性電位 (a+b+c電位) の形成を認めた. AFL (周期220~230ms) に対し周期170~200msにてCS pacing (S1~S20刺激) を施行し, 3峰性電位の反応を検討した. 周期180msのentrainment刺激の際, 第Ⅱ度心房内ブロック (Wenckebach型及び2 : 1ブロック) が出現しS4・S6刺激にてc電位の脱落を見た (この所見よりc電位はAFL回路には含まれない “袋小路電位” と診断された). c波高は, c電位脱落に伴うc-c間隔の延長度合いに比例して増大し, 先行c-c間隔が最長となった際のS7刺激由来のc波が最大波高を示した. 考察 : 本症例においてCS入口部領域で観察されたc電位はAFL回路に接続するdead-end pathwayにて記録された “袋小路電位” である可能性が強く示唆された. c波高は “先行c-c間隔” の延長 (=徐拍化) に比例して増大したが, ①徐拍化に伴う同期的興奮の可能な心房筋容量の増加, ②異方向性伝導の関与, などの機序が推察された.
著者
原 昭壽 中島 義仁 浅野 博 味岡 正純 酒井 和好 長内 宏之 桑山 輔 石濱 総太 坂本 裕資 大高 直也 小川 隼人 坂口 輝洋 村瀬 洋介
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.468-474, 2014

78歳男性. 2004年10月に洞不全症候群に対して左前胸部にAAIペースメーカを留置された. 2005年11月に植え込み部位の発赤を認めたため当院外来を受診した. ペースメーカ感染がまず考慮されたがバイタルサインや血液検査上は感染兆候認めず, 腕時計装着部の皮膚発赤から金属アレルギーを疑われた. ペースメーカ本体による接触テストを施行したところ接触部位の発赤が出現し, ペースメーカアレルギーと診断された. 対側への再植え込みに際し, 組織との接触防止のためリード・本体をpolytetrafluoroethylene (PTFE) シートで被覆して植え込みを行った. その後7年間発赤・腫脹などのトラブルなく経過した. バッテリー消耗により, 平成24年11月に電池交換を施行した. 術中所見としては, PTFE周囲は繊維性被膜に覆われおり, 滲出液などの感染やアレルギー反応を示す所見は認めなかった. 洗浄後にPTFE内に新規本体を収納し, 不足分を新規PTFEで被覆して閉創した. ペースメーカアレルギーへの対策として有効であったが, 感染リスクが今後の課題と考えられた.