著者
高杉 淑子 岡村 奈央子 徳住 美鈴 和泉 洋一郎
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.765-769, 2012 (Released:2013-01-15)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

初妊娠の37歳の女性は,10週に実施した妊娠初期検査で不規則抗体検査は陰性であった.40週に前期破水,陣痛が発来し入院となった.分娩進行中に児心拍が70台となり児頭下降不良のため,吸引分娩となった.胎児娩出後に出血性ショックを認め,薬物治療により血圧は小康状態になったが,出血が続いていたため赤血球濃厚液(RCC)16単位,新鮮凍結血漿(FFP)8単位の輸血依頼があった.緊急輸血のため院内在庫から生理食塩液法(生食法)による交差適合試験陰性のRCC 6単位,FFP 4単位輸血した.ところが不足分を取り寄せ,交差適合試験をポリエチレングリコール―間接抗グロブリン試験(PEG-IAT)法で行うと全て陽性であった.抗体同定検査で高頻度抗原Jraに対する抗体を検出したため,以降はJra陰性の血液を輸血した.その後遅延性溶血性副作用もなく順調に回復した.妊娠の経過中に,陰性であった不規則抗体が陽性化することもあり,妊娠後期に再検査を必要とする場合があると考えられる.