著者
和田 悌司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.1, pp.22-26, 2013 (Released:2013-01-10)
参考文献数
39

骨転移は乳がん,前立腺がん,甲状腺がん,腎がん,肺がんをはじめとする種々のがん患者において高頻度で認められ,その患者数は増加する傾向にあると言われている.骨転移はしばしば重大な骨関連事象(病的骨折,脊髄圧迫,骨への放射線治療,または骨に対する外科的処置)を引き起こし,患者のQuality of Lifeを著しく低下させることから,骨関連事象の発現を抑制することが望まれている.骨病変とその結果として生じる骨関連事象には,骨内に進入したがん細胞とそれを取り巻く骨環境が関与している.骨内でがん細胞は骨芽細胞等を介してRANKL(receptor activator for nuclear factor-κB ligand:RANKリガンド)の発現上昇を引き起こす.RANKLは破骨細胞の形成,機能,および生存を司る必須の因子であり,破骨細胞および破骨細胞前駆細胞に発現するRANKL受容体(RANK)に結合し,破骨細胞による骨吸収を促進することで骨破壊を誘導する.骨吸収の際にはがん細胞の増殖や生存を促す因子が放出され,がん細胞のさらなる自己増強(悪循環)に陥る.非臨床試験において,この「悪循環」に重要な役割を果たす分子のひとつであるRANKLを阻害することで,骨病変の進行抑制が認められることが乳がん,前立腺がん,および肺がんのマウスモデル等において確認されている.近年,ヒトRANKLに特異的かつ高い親和性を示すヒト型抗RANKLモノクローナル抗体,デノスマブによるRANKL阻害への期待が寄せられていることから,本稿では,デノスマブの作用機序およびデノスマブの標的であるRANKLに関して基礎研究データを概説するとともに,RANKL/RANK経路に関する最近の研究を紹介する.
著者
真嶋 修慈 和田 悌司 池田 貢
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.6, pp.295-302, 2012-12-01

デノスマブ(ランマーク<sup>®</sup>)は,特異的かつ高い親和性でヒトreceptor activator of nuclear factor <I>κ</I>B ligand(RANKL)に結合するヒト型抗RANKL抗体であり,2012年1月に「多発性骨髄腫による骨病変及び固形癌骨転移による骨病変」の適応で承認された.骨転移はしばしば生活に支障を来す骨関連合併症を引き起こすことが知られている.骨病変は,骨内に侵入したがん細胞が骨芽細胞等のRANKL発現を促し,それにより破骨細胞による骨吸収が亢進し,骨吸収により生じた増殖因子等ががん細胞のさらなる増殖を促すという悪循環により進行する.デノスマブはRANKLを阻害し,この悪循環を断ち切ることで骨病変の進展を抑制する.非臨床試験では,各種がん骨転移マウスモデルにおいて,RANKLの阻害により溶骨性骨病変の進行が抑制された.3つの無作為化二重盲検比較第III相試験は,種々の悪性腫瘍患者を対象に,ゾレドロン酸を対照薬とし,同一の試験デザイン,評価項目,統計手法を用い,デノスマブの有効性と安全性を評価した.その結果,デノスマブは悪性腫瘍の種類を問わず一貫した骨関連事象(skeletal-related event:SRE)抑制効果を示した.3つの第III相試験の併合解析では,デノスマブはゾレドロン酸と比較し,初回SRE発現リスクを17%(優越性:<I>P</I><0.0001),初回および初回以降のSRE発現リスクを18%(優越性:<I>P</I><0.0001)低下させた.抗悪性腫瘍薬の進歩により生存期間が延長しつつある中,QOLを著しく低下させるSREの制御は臨床的に重要である.デノスマブの副作用として,低カルシウム血症およびosteonecrosis of the jaw(ONJ)が認められた.低カルシウム血症についてはゾレドロン酸よりも発現頻度が高かった.デノスマブは簡便な皮下投与であり,腎機能障害による用量調節の必要はないものの,腎機能障害患者では低カルシウム血症を起こしやすいことから慎重な投与が必要である.ONJについては口腔内を清潔に保つなどして予防することが重要である.以上を踏まえ,本剤が多発性骨髄腫による骨病変および固形がん骨転移による骨病変の治療に貢献することを期待する.