著者
野地 徹 唐沢 啓 日下 英昭
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.121-134, 2003 (Released:2003-07-22)
参考文献数
70
被引用文献数
2 2

アデノシンが抗炎症作用を有するとの知見が集積しつつあるが,全身性副作用のためアデノシン自体の臨床応用は限定されている.アデノシン取り込み阻害薬は全身性副作用を発現することなく炎症局所でアデノシン濃度を上昇させ,抗炎症作用を発現する可能性が考えられる.そこで炎症に対するアデノシン取り込み阻害薬の有効性を検証することを目的として,新規アデノシン取り込み阻害薬KF24345のin vivo活性を検討し,糸球体腎炎および急性膵炎に対するKF24345の作用を解析した.KF24345は,既存のアデノシン取り込み阻害薬と比較して,マウスに経口投与後強力かつ長時間持続するアデノシン取り込み阻害作用を発現した.KF24345はリポポリサッカライドで誘発されるマウスの血清腫瘍壊死因子α濃度上昇および血中白血球減少を抑制し,その作用はアデノシン受容体拮抗薬の併用により消失した.またKF24345は,プレドニゾロンおよびシクロフォスファミドと比較して,重篤な副作用を発現することなくマウス糸球体腎炎の病態を改善した.さらにKF24345は軽症,重症双方のマウス急性膵炎の病態を改善し,特に重症急性膵炎において致死を抑制した.KF24345の抗急性膵炎作用は,アデノシン受容体拮抗薬の併用により消失した.以上,KF24345が炎症性臓器疾患に対して有効である可能性が示された.KF24345の作用はアデノシン拮抗薬の併用により大部分が消失したため,KF24345の作用発現は内因性アデノシンおよびアデノシン受容体を介していると考えられる.以上の研究を通じて,これまで主に虚血性疾患治療薬として使用されてきたアデノシン取り込み阻害薬が,各種炎症性疾患に対しても有効である可能性が初めて明らかとなった.