著者
喜羽 百合子 馬場 嘉信
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.193-203, 1999-02-05
被引用文献数
7 3

ヒト・ゲノム解析が進むにつれて, ヒト・ゲノム上の3塩基の繰り返し配列の伸長が発症と深く関連した疾患が発見され, これらは, トリプレットリピート病と呼ばれるようになった. 最近, トリプレットリピート病のDNA診断法が開発されたが, これらの方法では, DNAの解析にゲル電気泳動が用いられ, 自動化・高速化の点で非常に遅れている. そこで, 本研究では, 高速・高性能なDNA解析法であるキャピラリー電気泳動によるトリプレットリピート病のDNA診断システムの開発を目標として, 特異な高次構造を形成すると予想されるGCリッチなトリプレットリピートDNAフラグメントの泳動挙動を高分子物理学的理論に基づいて詳細に検討した. 一本鎖DNAマーカーの泳動挙動を基に, トリプレットリピート病のDNA診断法として開発されたrepeat expansion detection (RED)反応により生成するDNAのモデル化合物として, 一本鎖トリプレットリピートDNAフラグメントを合成し, その泳動挙動を解析した. その結果, すべてのトリプレットリピートDNAフラグメントの移動度はマーカーと比較してかなり大きくなった. これはトリプレットリピートDNAフラグメントの泳動挙動の非常に重要な特徴であり, その高次構造が大きく影響しているものと思われる. トリプレットリピートDNAフラグメントとDNA分子量マーカーの移動度について, reptation理論に基づき解析し, DNAの柔軟性の指標となる持続長を計算した. その結果, トリプレットリピートDNAフラグメントで柔軟性が低下していることが明らかとなった. このことは, トリプレットリピートDNAが特異的なヘアピン構造を形成することを示している.