著者
国原 峯男 佐瀬 真一 荒川 明雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.4, pp.299-307, 2007 (Released:2007-04-13)
参考文献数
44
被引用文献数
1 1

ガバペンチンは,1973年にワーナー・ランバート社(現ファイザー社)のドイツ研究所で合成されたGABA(γ-アミノ酪酸)誘導体である.当初の予想に反し,GABAおよびベンゾジアゼピン受容体への親和性を示さず,その他多くの受容体(グルタミン酸,NMDA,AMPA,カイニン酸,グリシン受容体など)にも作用せず,長く作用機序が不明のままであった.ガバペンチンは,ラット欠神発作モデルおよびヒヒ光過敏性ミオクローヌスモデルでは無効であったが,マウスのペンチレンテトラゾール誘発閾値間代性けいれんモデルをはじめとして他のてんかん動物モデルに有効であった.近年ガバペンチン結合タンパクは電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットと同定され,ガバペンチンは興奮性神経の前シナプスのカルシウム流入を抑制し,神経伝達物質の放出を部分的に抑制した.また,ガバペンチンはGABA神経において脳内GABA量を増加させ,GABAトランスポーターの細胞質から膜への細胞内輸送を促進し,GABA神経系を亢進させた.これらの知見から,ガバペンチンはグルタミン酸神経などの興奮性神経を抑制し,GABA神経系を亢進することにより,抗けいれん作用を発現するものと考えられる.国内臨床試験では,既存の抗てんかん薬治療で十分に抑制できない部分発作を有するてんかん患者を対象としてプラセボ対照二重盲検試験を実施し,他の抗てんかん薬との併用療法における有効性および安全性が確認された.ガバペンチンは,体内で代謝されず,ほぼ全てが未変化体のまま尿中に排泄された.また,血漿タンパク結合率は3%未満であり,臨床用量では薬物代謝酵素の阻害あるいは誘導を起こさないため,抗てんかん薬治療でしばしば問題となる薬物動態上の薬物相互作用のリスクが低いと考えられた.以上の特徴から,ガバペンチンは,部分発作を呈する難治てんかんに対する有用な併用治療薬であると考えられる.