著者
國行 浩史
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.29-38, 2012

国内の追突事故における被追突車両乗員の負傷者は交通事故負傷者全体の約35%を占め、今後の交通事故死傷者の低減に向けて注目されている事故の一つである。しかし、軽傷者が多いため傷害発生メカニズムを分析する場合、調査数が限られている国内のミクロデータでは重症となる事故例が少なく、要因解析をするための回帰分析などが困難である。そこで本研究では、情報は限られるが国内のマクロデータを用いて順序ロジスティック回帰分析を行い、被追突車両の乗員傷害に対する傷害予測手法の確立とその影響因子の明確化を行った。その結果、衝突前後の車両速度差ΔV、車両損壊程度、シートベルト着用有無、乗員の年齢及び自車の車両種別が有意となる傷害予測式が求められた。また、この傷害予測式はマクロデータによる死亡重傷率と大きな乖離なく予測ができ、国内のミクロデータの事例を概ね予測できることを確認した。さらに、ΔVやシートベルト着用などこれらの因子が傷害リスクに与える影響度を明らかにすることができた。この予測を用いると、被追突車両乗員の大半を占める状況であるシートベルトを着用しΔV≦60㎞/hの場合の死亡重傷確率は20%以下であり、50%以上の条件は限定されていた。このように、被追突車両の乗員傷害予測による重症度判定は死亡重傷確率の小さい条件から多くの負傷者が発生することが見込まれ、オーバートリアージの判定が必要であり、傷害予測を行う上で感度とオーバートリアージ率のバランスが大きな課題であることが分かった。