著者
本宮 嘉弘 高塚 尚和
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.34-41, 2018 (Released:2019-03-28)
参考文献数
6

わが国では近年、軽ハイトワゴンと呼ばれる車高の高い軽乗用車が流行しているが、このような車種は重心が高いため、交差点等で低速度で衝突しただけでも容易に横転する。車両が横転した場合、乗員が車室内に強く二次衝突したり、割れた窓部から車外放出されるなどして死傷することが多い。筆者らが実際に調査した横転死亡事故をもとに、実車を用いた衝突実験やコンピューターシミュレーション解析により事故時に軽ハイトワゴンが横転するメカニズムを解明した。その結果、横転には衝突後のヨー回転速度やローリング共振周波数等が影響することが判明し、さらに走行速度が低いほど横転し易い可能性も示された。このため、軽ハイトワゴンが横転し易い車両であることを周知させるとともに、横転に備えてカーテンシールドエアバッグの装着を義務付ける等の方策が必要であろう。
著者
川井 北斗 中川 里沙子 高相 真鈴 中西 智之 高 淳澔 一杉 正仁
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.27-32, 2019 (Released:2020-09-30)
参考文献数
12

自動車の衝突事故以外の死亡例として、一酸化炭素(CO)中毒、熱中症、溺水などが報告されている。しかし、これらに対しては具体的な分析に乏しく、効果的な予防策が構築されていない。今回、自動車内で不慮のCO中毒により死亡した剖検2事例、およびわが国における同様事例を調査し、予防策について検討した。剖検例は、1例が雪による排気管の閉塞、もう1例は自動車衝突後の排気管破損放置が原因でCO中毒死を遂げていた。一方、わが国の報告例は、自動車内における不慮のCO中毒者は39人であり、うち14人は死亡していた。発生原因については、死亡例は本剖検例のような車両の整備不良が42.9%、雪による排気管の閉塞が21.4%であり、生存例は雪による排気管の閉塞が92.0%であり、車両の整備不良が8.0%であった。CO中毒予防策について、まず、死亡例においては、車両の整備不良による一酸化炭素中毒になる危険性について広く啓発するとともに、排気管の損傷等を確認すべく、点検・整備を受ける必要がある。次に、生存例においては発生原因の92.0%が雪による排気管の閉塞であり、約半数は乳幼児が犠牲になっているという特徴があった。対策として、積雪時には必ず排気管のテールパイプ周囲の雪を除雪してエンジンをかける必要がある。また、自動車に関するCO中毒事例の登録制度の構築によって、全事例の詳細な分析が望まれる。さらに、自動車内のCO濃度を測定して警報を発するシステムの導入といった車両の安全対策も望まれる。
著者
本宮 嘉弘 山内 春夫 高塚 尚和
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.34-41, 2015 (Released:2018-03-01)
参考文献数
2

高速道路で事故を起こしたワゴン車が、事故のはずみでガードロープの支柱を押し倒し、これを跨ぐように停止したが、その直後に出火・炎上して6名が死亡した。車底部の強度部材よりも下方に突出した構造のガソリンタンクにガードロープ支柱が突き刺さり、ここから噴出したガソリンが車体と路面の擦過による火花等により着火したものと推定された。このほかにも、高速道路でスリップした乗用車がガードロープ支柱に横向きに衝突して樹脂製ガソリンタンクが破損し出火した事例や、軽自動車が誤って歩道縁石を跨いで走行したためにガソリンタンクが破損し出火した事例について検討を行った。ワゴン型乗用車では、車室の床面を平坦にするためにタンクを車体中央部に下方に大きく突出した構造となっているなど、車体構造上の問題点もある。道路運送車両の保安基準における燃料タンクの安全基準としては、取り付け位置や強度に関する具体的な数値等は明記されておらず、特にタンク下面に到っては何らの規定もない状態である。また自動車アセスメント(JNCAP)において実施されている前面および側面衝突の試験形態では、変形が燃料タンクまで及ぶことはないことから、事故に起因する燃料漏れで車両火災が生じる危険性をメーカーに周知させるまでには到っていない。
著者
寺島 孝明 大賀 涼 加藤 憲史郎 田久保 宣晃
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.8-17, 2018 (Released:2019-03-28)
参考文献数
16
被引用文献数
1

警察庁発表の交通事故統計によれば、国内の2012年の交通事故発生件数約67万件のうち被追突車両が停止中の追突事故は約21万件であり、その内の13%が多重追突事故に至っている。本研究では、被追突車両が前方へと押し出されて、さらに前方に停止している車両等に衝突して二次被害を発生させる形態の多重追突事故を研究対象とした。追突事故の実態を把握するため、東京農工大学のヒヤリハットデータベースから追突事故時のドライブレコーダの記録を解析した結果、停止中または減速中に追突された車両の運転者の64%が、衝突の衝撃によりブレーキ操作を維持できずに中断していた。このブレーキ操作の中断中に、被追突車両は前方へと押し出され、一部の事故では多重追突事故に至っていた。そこで、本研究では追突事故における被追突車両にポストクラッシュブレーキシステムが搭載されており、追突直後に自動ブレーキ(ポストクラッシュブレーキ)が作動したと仮定して、被追突車両が押し出される距離を推定し、多重追突事故の削減の可能性を検討した。実車による追突事故の再現実験から車両追突時の反発係数を求め、得られた反発係数をドライブレコーダに記録された事故に適応することで、被追突車両が押し出される速度ならびに距離を推定した。ここで停止中の車列の最後尾とその前車との車間距離を2.5mと仮定した場合、最後尾の被追突車両が2.5m以上押し出された場合に多重追突事故に至ることになる。ドライブレコーダに記録された24件の追突事故のうち6件の事故で2.5m以上前方へと押し出されたと推定された。これらの事故に対して事故直後にポストクラッシュブレーキが作動したと仮定した場合、5件の事故で押し出し距離が2.5m以下に抑制できたと予想された。以上のことから、ブレーキ操作中に追突された際にポストクラッシュブレーキにより、被追突車両が前方の車両と衝突する二次被害を削減できる可能性が示唆された。
著者
一杉 正仁 有賀 徹 三宅 康史 三林 洋介 吉沢 彰洋 吉田 茂 青木 義郎 山下 智幸 稲継 丈大
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.53-58, 2020 (Released:2021-04-02)
参考文献数
12

緊急自動車に対する反射材の取り付けについて学術的に検討した結果、次のとおり推奨する。 1.反射材を車体に取り付けることは、視認性の向上に有用である。 2.反射材の選択においては、再帰性に富んだ反射材が望まれる。 3.反射材の取り付けにおいては、他の交通の妨げにならないこと、車両の前面に赤色の反射材を用いないこと、車両の後面に白色の反射材を用いないこと、が原則である。 4.車体の輪郭に沿って反射材が取り付けられること、車体の下部にも反射材が取り付けられること、は視認性の向上に有用である。 5.蛍光物質を含む反射材は、夜間のみならず、明け方、夕暮れ、悪天候などでの視認性向上に有用である。 6.今後は救急自動車以外の緊急車両、現場で活動する関係者が着用する衣服などで、反射材を用いた視認性の向上を検討する余地がある。
著者
浅井 康文 佐藤 昌太 坂脇 英志 相坂 和貴子 加藤 航平 水野 浩利 前川 邦彦 丹野 克俊 森 和久 奈良 理 高橋 功 目黒 順一
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.21-27, 2011 (Released:2018-03-01)
参考文献数
6

北海道では、ドクターヘリ(3機体制)と北海道防災ヘリなどとの共存体制や、さらなる航空機医療の充実を目的に、2010年5月北海道航空医療ネットワーク研究会が設立された。本研究会では、試験事業として民間企業からの寄付によって小型ジェット機を1ヶ月間チャーターし、患者搬送、医師搬送、臓器搬送を実施したので、その結果と運航の可能性や課題等について報告する。結果は、総出動件数16件で、患者搬送9件(要請11件)、臓器搬送4件、医師搬送3件であり、事故なく安全に運航できた。また、着陸可能な北海道内の8空港で見学会を開催し、普及活動も同時に実施した。1ヶ月間の固定翼機運航の成果を踏まえて、北海道地域再生医療計画に基づき、2011年度より3年間に渡り、固定翼機(メディカルウイング)の運航が実地される。
著者
前田 玄太 一杉 正仁 柴崎 宏武 影澤 英子
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.20-26, 2019 (Released:2020-09-30)
参考文献数
9

交通事故総合分析センターのマクロデータの中から2012〜2016年の5年間に日本で発生した「路上横臥」(以下、横臥群とする)の交通事故を対象に、事故発生状況、路上横臥による死傷者の背景および人身損傷程度を分析した。また、同期間の事故類型別の「人対車両」の非路上横臥の交通事故(以下、非横臥群とする)と比較した。横臥群が人対車両の中に占める割合は、死傷者数で0.6%、死亡者数で8.3%であった。横臥群の発生は8月がもっとも高く、夏季に多い傾向であった。次いで12月を中心とした冬季にも高い傾向がみられた。非横臥群の発生は12月がもっとも高く、冬季に多い傾向であった。横臥群は非横臥群と比較して、土曜日および日曜日の発生割合、および夜間の発生割合が有意に高かった(p<0.001)。横臥群では、死亡の割合(致死率)が33.0%であり、非横臥群の致死率2.3 %と比較して有意に高かった(p<0.001)。路上横臥は致死率が高いため、路上横臥者を轢過しないための予防安全が重要である。地域の実情を踏まえた路上横臥の予防対策と、事故を回避できる車載システムの実用化が今後望まれる。
著者
馬塲 美年子
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.11-18, 2017 (Released:2018-04-11)
参考文献数
9
被引用文献数
1

近年、高齢運転者による事故が問題となっている。高齢化が進むわが国では、高齢運転者対策は喫緊の課題である。認知症(アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症)と診断された人は、免許を更新することができない。2017年改正道路交通法の施行により、高齢者の免許更新手続が変更となり、認知機能検査後に、認知症専門医などの診断が必要となる人が5万人以上になると推計されている。また、新たに臨時認知機能検査・臨時高齢者講習が導入された。しかし、認知機能検査は、記憶力・判断力から認知機能について判断するものであるため、比較的記憶力・判断力が保たれている患者の場合、第1分類の判定を免れることもある。したがって、検査項目および対象年齢について検討が必要と思われる。認知症患者が事故を起こした場合、家族に賠償責任が発生することがある。徘徊中の認知症患者の鉄道事故における最高裁判決(平成28年3月1日)で、家族の責任は否定されたが、この判決は認知症患者の家族の賠償責任を否定したものではない。今後、個々の事例ごとに監督義務者にあたるか、不法行為責任を負うかという観点から判断されることになる。また、認知症患者は高齢であるため、複数の疾患に罹患している可能性を考慮する必要があり、刑事責任を問うにあたって、事故との因果関係の判断が困難となることがある。以上のように、高齢者や認知症患者の運転に関しては、様々な法的問題がある。問題に対応するために、法改正や新しい制度の導入が行われてきたが、まだ現況に即しているとはいえず、今後さらなる検討が必要だと思われる。
著者
渡邉 修
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.3-10, 2017 (Released:2018-04-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1

自動車運転には、運動機能、視覚機能の他に、認知機能として、計画能力、注意の維持、選択、分配、転換機能、ワーキングメモリー、遂行機能、視空間認知機能、短期記憶、長期記憶、展望記憶、道具の操作能力、感情のコントロール能力、自己認識能力を必要とする。これらの能力が保持されるためには、両側前頭葉、右頭頂葉を始めとする左右の大脳半球の広範な機能が健全である必要がある。したがって、当院では、脳損傷者が運転再開を希望する場合、前提条件として、医学的に安定し、日常生活が自立しており、社会性が保持されていること等を確認し、その後、脳画像所見と神経心理学的検査結果を参考として、ドライビングシミュレーターによる運転能力評価を行っている。そしてこれらで問題がない場合には、近隣の自動車教習所において実車による運転能力評価を行っている。
著者
渡邉 修 秋元 秀昭 福井 遼太 池田 久美 本田 有正 安保 雅博
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.3-8, 2019 (Released:2020-09-30)
参考文献数
11

【はじめに】交通事故や転倒転落を主な原因とする外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI)は、とくに中等度から重度の場合、後遺する身体障害および高次脳機能障害により、介護する家族の負担は深刻である。しかし、外傷後の経過とともに、これらの障害は、改善していくことから、家族の介護負担感も軽減していくと考えられる。本研究は、TBI後、10年以上が経過した事例について、その家族の介護負担感を調査した。【対象および方法】TBI後、10年以上が経過した344例の患者の家族に、質問紙によるアンケート調査を行った。344例(男性289例、女性55例)は、受傷時平均年齢は24.0±13.3歳、現在の平均年齢は、43.6±12.3歳、TBIからの平均経過年数は、19.6±7.5歳であった。【結果】現在、296例(86.0%)が家族と同居していた。このうち、34例(全体の9.9%)が配偶者と同居していた。単身者は48例であった。バーセルインデックス(barthel index;BI)は、平均89.3±19.3で、日常生活が自立しているとされる85点以上は、270例(78.5%)であった。認知行動障害とZarit介護負担尺度は正の相関を認めた。一方、BIとZarit介護負担尺度には相関は認められなかった。就労群の受傷時年齢は非就労群に比し若年であった。そして、現在の年齢も、就労群のほうが若年であった。一方、介護負担感は、有意に就労群のほうが低かった。外出頻度別に介護負担感を比較すると、高頻度外出群のほうが、介護負担感は低かった。【結語および考察】受傷後、10年が経過しても介護する両親(あるいは主に妻)の負担感が大きい。介護負担感と認知行動面の障害には正の相関があり、さらに介護負担感には有意に就労の有無、外出頻度が関連していた。社会性の確立こそがTBIで表れやすい認知行動障害を改善に導く。患者ごとにそれぞれの目標に沿って、地域リハビリテーション、職業リハビリテーションを提供していくことが、家族の介護負担感を軽減することになると考えられる。
著者
松井 靖浩 及川 昌子
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.32-38, 2018 (Released:2019-12-21)
参考文献数
4

本稿では、歩行者検知型被害軽減装置を搭載する車両の衝突速度低減時の歩行者の被害軽減効果を明確にすることを目的とし、貨物車を含む車両の衝突速度と歩行者重傷率・死亡率との関係を交通事故実態に基づき分析した。ここでは、公益財団法人交通事故総合分析センター所有の交通事故統合データおよび事故例調査データを使用した。大型貨物車、中型貨物車、小型貨物車、1Box車、セダンを対象として、車両衝突速度が減少した場合の歩行者の傷害状況を分析した。セダンが30km/h以下、小型貨物車および1Box車が20km/h以下、中型貨物車が10km/h以下で歩行者に衝突した場合、死亡率は5%以下となった。大型貨物車は、10km/h以下で歩行者に衝突すると、死亡率が10%以下となった。このように歩行者の死亡率は、車種により異なる傾向を示すことが明らかとなった。また、車両衝突速度が30km/h以上の場合、衝突速度を10km/h低減させるだけでも死亡率は大幅に減少可能なことが示された。交通事故による死傷者を大幅に低減させる技術として、歩行者検知型被害軽減装置への期待は大きい。将来、車両衝突速度を減少させる機能が適切に作動可能な装置として、車種ごとに適切な目標を定めて開発され、貨物車を含む各種車両に適用された場合、交通事故における歩行者の死傷者数の大幅な減少が期待される。
著者
一杉 正仁 安川 淳 五明 佐也香 槇 徹雄 徳留 省悟
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.3-8, 2011 (Released:2018-03-01)
参考文献数
15

1997年から2011年の14年間に獨協医科大学法医学講座で行われた四輪自動車運転者の法医解剖91例のうち、運転中の体調変化によって病死した33例(走行中病死群)および事故による外傷で死亡したが、原因が運転者の機能的変化によると推定される8例(外傷死群)を対象に、その特徴を調べた。いずれの群ともに、70%以上の運転者で何らかの既往疾患が認められ、高血圧、心・大血管疾患、糖尿病が多かった。事故による損傷の重症度では走行中病死群で平均ISSが4.7と低いが、外傷死群では37.0と有意に高かった。すべての身体部位のAIS値は外傷死群で高かったが、特に胸部の平均AIS値が4.1と著しく高く、頭頸部の2.0、四肢の1.8と続いた。交通事故死の約1割で運転者の体調変化が事故原因となっているため、まず、運転者の健康管理を厳格に行う必要がある。また、交通外傷と診断された患者の中には、事故原因が運転中の体調変化に起因する例が潜在的に含まれる。したがって、外傷患者に対しても、交通事故の原因として運転者の体調変化を念頭に置き、検索をすすめる必要があろう。
著者
馬塲 美年子 一杉 正仁 松村 美穂子 相磯 貞和
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.13-20, 2011 (Released:2018-03-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

糖尿病患者は、治療中の低血糖により意識障害を引き起こすことがあり、運転中に発作が起こった場合には、死傷事故につながる。今回われわれは、糖尿病治療中の低血糖による意識障害に起因した自動車事故の裁判例を調査し、糖尿病患者が自動車を運転する際に求められる注意義務、および事故予防のため医師や社会が注意すべき点について検討した。対象は8例で、事故は1996年から2009年に発生していた。運転者の職種は、職業運転者が3人、会社員2人、無職(主婦)2人、僧侶1人であった。また、事故で計7人が死亡し、16人が負傷していた。裁判では、病気による意識障害を理由に無罪を主張した例は3例あった。処分が判明している6例はすべて有罪であった。糖尿病治療中の患者が自動車を運転者する場合、前兆を感じた時点で運転を中止する義務、もしくは運転自体を控える義務がある。つまり、病気を理由に刑事責任を免れることはできない。また、行政によるチェックの強化や事業者に対する指導の徹底により、事故の予防効果は高まる。さらに、糖尿病治療中の低血糖が医原性のものであることを考慮すれば、医療従事者が糖尿病患者に対して運転中の低血糖予防についてさらなる指導が必要であると考えられた。
著者
吉沢 彰洋 中村 俊介 山下 智幸 三林 洋介 一杉 正仁 有賀 徹
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.79-80, 2016 (Released:2018-03-01)

長野県北アルプス広域消防本部において、2015年11月に実施された既存車両への「再帰性に富んだ反射材」貼付の実証実験とその後のアンケート調査の結果、非常に高い評価を得た。このうち救急車に関しては、実車両の反射具合と国土交通省発出文書に関する松本自動車検査登録事務所の解釈が落ち着いたことを確認して、貼付位置等を若干変更し、2016年3月18日「再帰性に富んだ反射材」を備えた新車の納車を迎えた。
著者
安藤 剛 松元 一明 横山 雄太 木津 純子
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.46-51, 2017 (Released:2018-03-01)
参考文献数
8

慢性疾患や急性疾患により、治療薬を服用しながら自動車運転をしている患者は多いが、服薬による交通事故の実態は不明である。今回、医薬品医療機器総合機構の医薬品副作用データベース(JADER)を用いて医薬品による交通事故の実態について調査した。2004年4月〜2016年3月において、JADERの総登録件数は390,669件で、有害事象としての交通事故は342件であった。被疑薬176薬品のROR(Reporting Odds Ratio)および95%信頼区間(CI)下限値を算出した結果、82薬品においてCIの下限値が1を超えており因果関係が示唆された。被疑薬としては、プラミペキソール塩酸塩水和物が47件と最も多く、そのうち36件が突発的睡眠が併発有害事象であった。次いでゾルピデム酒石酸塩46件、プレガバリン35件、バレニクリン酒石酸塩19件、スルピリド13件等であり、添付文書に自動車運転等に関する警告や禁止が記載されている医薬品が主であった。高齢化が進み、自動車運転に対する療養指導、服用すべき医薬品に関する適切な服薬指導は益々重要となる。自動車運転をする患者に対しては、医師や薬剤師が適切にアドバイスする必要があり、その際に、本調査結果は有用な資料の一つとなると考える。
著者
本宮 嘉弘 山内 春夫 松川 不二夫
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.18-24, 2011

道路を横断中の歩行者が跳ねられた事故において、衝突地点を特定することは自動車の衝突速度や運転者の過失を判断するうえで重要なことであるが、靴などによる路面の痕跡によって衝突地点を特定できることは稀であり、ほとんどの場合、運転者の供述や目撃証言に頼らざるを得ないのが実情である。歩行者との衝突地点を特定する1つの方法として、制動痕の屈曲現象がある。実際の事故において歩行者を跳ねた自動車の制動痕がわずかに屈曲していることがあるが、この屈曲がほぼ衝突地点(衝突地点から0〜2m先)で生じることをダミーを用いた衝突実験およびコンピューターシミュレーションで確認した。また、跳ねられた歩行者がかぶっていた帽子が事故現場に落ちている場合があるが、衝突実験の結果、帽子は衝突の瞬間に脱げることが多いため、衝突地点付近に遺留される傾向のあることが確認された。ただし、落下途中で帽子が車両に接触して、数メートルほど飛ばされることもあるので注意を要する。また、歩行者のさしていた傘も衝突地点付近に落下する傾向のあることが実験により確認された。
著者
石井 亘 飯塚 亮二 一杉 正仁
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.35-41, 2020 (Released:2021-04-02)
参考文献数
17
被引用文献数
1

自動車乗車中のシートベルト着用が義務化されてから、シートベルトによる胸腹部損傷が顕著になってきた。シートベルトによる損傷の形態と受傷機転を明らかにするために後方視的検討を行った。2013年4月〜2018年3月に京都第二赤十字病院(以下、当院)に入院した外傷患者の中で、シートベルト痕がありシートベルトに起因したと考えられる体幹部外傷例14症例を対象とした。各例で受傷機転、損傷、病院搬入時のバイタルサイン、治療法などを比較した。平均年齢は49歳で10例が運転者、3例が助手席乗員であった。胸腹部のシートベルト損傷のみを認めるのが8例、四肢や頭頸部に合併損傷を認めるのが6例であった。これらの間で平均ISS(Injury Severity Score)に有意差はなかった。また、明らかにシートベルトの着用位置が不適切であったのが4例あり、シートベルトが腹部にかかることで生じた小腸腸間膜損傷、腹壁筋膜下血腫、肩ベルトが頸部にかかることで生じた頸部の皮下血腫などが生じていた。自動車乗員の交通外傷診療では、シートベルト着用の有無を確認することがまず重要である。そして、シートベルトが正しい位置に着用されているかを確認する必要もある。シートベルト痕を認める症例では、経過とともに症状が現れて重症化することがあり、慎重な管理が必要と考える。
著者
渡邉 修
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.3-8, 2015 (Released:2018-03-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

脳外傷の年齢層は20歳と50歳に2相性のピークを有し、前者では交通事故が、後者では転落・転倒事故が主な原因である。近年の救急医療の発展および交通事故対策の結果、交通事故の死亡者数は年々減少しているが、生存する例は増え、重症例はむしろ増加していることから、リハビリテーションの果たす役割は大きい。一般に脳外傷は、受傷機転より、前頭葉および側頭葉に損傷をきたしやすい。したがって、障害像は、身体障害としては、失調症状は多いが運動麻痺は少なく、重症例でもADLは自立する例が多い。しかし、高次脳機能障害としては、前頭葉損傷として注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害(自発性の低下、易怒性、病識の低下等)が、側頭葉損傷として記憶障害がみられやすい。リハビリテーションは、環境調整、要素特異的訓練、代償的訓練、行動変容療法、全人的、包括的リハビリテーション、地域リハビリテーション、職業リハビリテーションからなる。重度の高次脳機能障害例は、病院内の回復期までのリハビリテーションでは改善せず、地域の社会資源を活用した、医療・福祉・行政の連携体制が必要となる。自験例より、認知リハビリテーションによって、脳血流が改善することを報告した。脳外傷後の認知障害および社会的行動障害は、重度例であっても、時間をかけた、なだらかな回復を示し、受傷後、数年以上にわたって回復をみることから、長期的なリハビリテーションと支援体制の構築が必要である。
著者
髙橋 千晶 奥寺 敬
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.3-8, 2017 (Released:2018-03-01)
参考文献数
11

目的:交通事故の傷病者の救護を含めた日本の救急医療の現場では、迅速に患者の状態を伝達する方法の一つとしてコーマスケールが使用されてきた。Japan Coma Scale(JCS)が国内で最も普及されているが、評価者間のばらつきなどの問題が指摘されており、新たなコーマスケールの開発が望まれていた。2003年に、これらの問題点を改善したEmergency Coma Scale(ECS)が開発され、普及されつつあるが、そのスケールがJCSの問題点を解決できているのか、多施設合同比較研究を行い検証を行った。方法:研究では評価者間のスコアの一致性(STEP I)と、評価スコアの正確性(STEP Ⅱ)の2つの側面から検証を行った。STEP Iでは救急外来での実際の患者の意識レベルの評価を3つのコーマスケール〔ECS、JCS、Glasgow Coma Scale(GCS)〕を用いて複数の評価者で行いそのスコアの一致率を解析した。STEP Ⅱでは意識障害のある模擬患者の動画を視聴して、参加者が3つのコーマスケールを用いて評価し、その正解率を検証した。結果:STEP Iでは評価者全体でECSにおいて評価者間一致率が高かった。STEP ⅡではECSにおいて正解率が最も高い結果を示したが、コーマスケールの使用経験のない医学部4年生で評価法の複雑なGCSで正解率が著明に低かった。考察:両研究の結果を総合すると、ECSはさまざまな職種の医療スタッフだけでなく一般人にも簡潔で、解釈しやすいスケールであり、救急診療の現場によく適合し、非常に有用な評価手段であると考える。
著者
森田 沙斗武 西 克治 古川 智之 一杉 正仁
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.38-43, 2016

近年、わが国では高齢化が大きな社会問題となっており、65歳以上が人口の25.0%を占める。さらに、近年一人暮らし世帯の割合が著明に増加しており、一人暮らし高齢者は4,577,000人と高齢者人口の15.6%を占める。孤立死についての確固たる定義はないが、内閣府の高齢社会白書には「誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような悲惨な孤立死(孤独死)」と表現されている。これまでの報告では「独居の在宅死」を孤立死として取り扱っていることが多いが、孤独死の本質的な問題点は社会からの孤立である。我々は社会からの孤立の程度は、死後から発見までの時間を指標にできると考えた。すなわち、これまでの報告が「誰にも看取られることなく息を引き取る」ことに注目していたのに対し、我々は「相当期間放置される」ことに注目し高齢者の孤立死に対する調査を行った。2010年4月から2012年3月の3年間に大阪府監察医事務所で行われた死体検案例のうち、筆者らが実務を遂行した症例から自殺症例を除外した65歳以上の高齢者448例について、死後発見時間にフォーカスを当て、性別、同居・独居の別、年齢、死亡から発見までの時間、最終通院から死亡までの時間、発見に至った経緯、死因に関して検討を行った。また、その中で通院歴が明らかとなった242例について最終通院から死亡までの時間を抽出し、評価を行った。その結果、高齢者は若年者に比べて必ずしも孤立死が増加しているのではないことが明らかとなった。孤立死の危険因子としては、男性、無職、独居が挙げられ、また、医療機関を頻回に受診すると死後発見時間が短くなる傾向が判明した。現代において高齢者の一人暮らし世帯の増加は不可避であり、我々は孤立死を減少させる取り組みの本質は死後発見時間の短縮であると考える。その上で、高齢者に就労の場、かかりつけ医制度の充実、ヘルパーの積極的な訪問などの対策を提唱する。