著者
土佐 紀子
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究目的:近年、「動物福祉(animal welfare)」、という言葉を盛んに聞くようになり、実験動物に関しても動物の「幸福な暮らし(psychological well-being)」を実現するための環境エンリッチメント(environmentalenrichment)の役割が注目されている。実験動物の飼育では、飼育環境が抱える物理的または社会的な問題により、繁殖障害、発育障害、異常行動といった異常がしばしば観察される。これらの問題における環境エンリッチメントの効果に期待が高まっている。今回、環境エンリッチメントの中の一つの要素であるマウス専用玩具に注目し、マウスの異常行動である常同行動と攻撃問題における影響について解析した。研究方法と結果:実験には、給・排気型動動物飼育システム(TONETS SEOBiT)を用いた飼育室(最大収容ケージ数:432)を使用し、設置された9台のラックには前面式自動給水装置(エデステローム)が装備されていた。床敷にはペパークリーン(三協)を使用し、餌はMF(オリエンタル酵母)を給与した。この飼育室の利用者の了承を得て、飼育されているマウス全てを披見動物として使用した。マウスの種類は、ICR、C57BL/6、BDF1と、C57BL/6の遺伝的背景を持つ遺伝子組み換えマウスで、常時約800匹のマウスが飼育されていた。この飼育室で発生する常同行動を、月に1回、4ケ月間調べたところ、飼育ケージ数の平均が289.75±21.05個に対して、給水ノズルを悪戯する行動が60.5±7.85(20.75±1.28%)個のケージで観察された。これらのケージに市販されている玩具であるShepherd Shack(エルエスジー)またはMouse Igloo(アニメック)と木片を施し2週間観察したところ、78例32例(41%)で悪戯が消失した。さらに、悪戯が消失しなかったケージ5例に、新しく考案したボールタイプの玩具を施し2週観察したところ、3例(60%)で悪戯が消失した。一方、攻撃行動が観察されたケージについて、上記と同じ玩具を施したところ、10例中10例(100%)で怪我の治癒が認められた。研究成果:本研究により、マウス専用玩具が常同行動と攻撃行動に効果がある事が明らかとなった。特に攻撃問題に関しては、玩具を一つケージ入れるだけで攻撃問題が消失した事は非常に興味深く、マウスの攻撃性が低下した事によるのか、避難場所が確保できた事によるものか、今後さらに解析を進めたいと考えている。