著者
土田 人史 西向 淳吾
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.879-884, 2018

<p>木材需要の拡大,木材資源の活用,環境に対する関心が高まる中で,高収率で高品質なパルプを得ることのメリットは非常に大きい。しかしパルプ工程は,パルプ成分のセルロース,ヘミセルロースの溶出を抑制して,リグニンを効率的かつ選択的に除去する工程であるが,ヘミセルロースの溶出でパルプ収率ロスに繋がっていること確認されていた。</p><p>本稿ではヘミセルロースの溶出防止と再吸着反応に着目して,最適な操業pH域の調査と同コンセプトの弊社開発品について考察した。</p><p>リグニンおよびヘミセルロースは,pH域によりパルプへ再吸着または黒液へ溶出し,パルプ収率に影響を与えることが確認された。またリグニンを選択的に溶出させ,ヘミセルロースをパルプに再吸着する理想的なpH域が存在した。</p><p>O<sub>2</sub>晒,酸晒工程の操業pHは,吸着量や白色度,カッパー価との相関からパルプ収率や品質に影響を及ぼしていた。これらの再吸着pHや晒工程の操業pHを活用すれば,パルプ収率や品質向上に貢献することが期待できた。</p><p>収率向上剤ポリマスターR-608Kは,実操業上pHの調整が困難な場合電荷中和を利用してセルロースにヘミセルロースを吸着させる機能があり,パルプ収率向上に非常に有望であった。</p><p>また操業安定化剤ポリマスターR-100は蒸解液の木材チップへの浸透を強化し,チップの沈降性を均一化させる機能があり,アルカリ低減,蒸解温度低下,蒸解時間の短縮などの蒸解条件の緩和メリットを提案することができることも確認できた。</p>