著者
坂井 多穂子
出版者
東洋大学国際哲学研究センター(「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ)事務局
雑誌
「エコ・フィロソフィ」研究 = Eco-Philosophy (ISSN:18846904)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.81-92, 2020-03

古来、中国の河川はしばしば洪水を発生させたため、中国文明の繁栄には治水が不可欠であった。禹と李冰は中国文明を代表する治水師である。禹は治水の成功によって夏王朝の創始者となり、戦国時代の李冰は岷江に都江堰を建造して蜀郡を豊かな地域にした。彼らは治水の功績によって神格化され、治水の神となった。禹は天地創造の神話に登場する神となり、李冰父子は「二郎神」という道教の神となって『西遊記』や『封神演義』にも登場した。現代中国における水の問題には、洪水や渇水だけではない。経済発展によって水質汚染が深刻化している。現代の二大治水プロジェクトは、三峡ダムと南水北調である。これらのプロジェクトによって解決できる問題は少なくないが、一方では建設地から移住させられた人々の貧困などの新たな問題も発生している。