著者
坂井 貴臣
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.225-230, 2011 (Released:2011-08-30)
参考文献数
48

神経遺伝学は動物の本能行動の研究に利用されている。特定の行動を支配する遺伝子を同定することができれば,その行動にかかわる神経回路の同定やその生理学的メカニズムの解明に役立つ。キイロショウジョウバエは古くから行動実験に利用されてきたが,その中でも特に性行動の研究が盛んに行われ,多くの研究者によって雌雄の複雑な性行動が詳細に報告されてきた。また,分子生物学的解析が容易なことから,性行動にかかわる多くの遺伝子が同定されてきた。オスの性行動の研究では遺伝子を同定するにとどまらず,性行動を制御する脳神経細胞・回路が同定され,さらにそれらの神経活動と性行動の関係も明らかにされつつある。一方,未交尾メスの性行動にかかわる遺伝子も報告されているものの,メスの性行動を制御する脳機構はいまだ不明な点が多い。本稿では,キイロショウジョウバエメスの性行動の研究手法とこれまでに報告された遺伝子や神経遺伝学的研究を紹介するとともに,これまでに得られた知見からその分子・生理機構について議論する。