著者
岩橋 成寿 國井 啓子 坂元 和子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.439-444, 2014

福島第一原子力発電所(以下,福島第一原発)から44kmの地点に位置する災害拠点病院において,原発事故直後に職務遂行が困難になった看護師の2例を報告する.症例1:30代,女性.3月14日に両親が親戚宅に避難し,自分一人が自宅に残った.それから強い不安感が持続し,3月15日の午前中に受診した.血圧が175/104mmHgと上昇し,感情がコントロールできない状態であった.不安状態と診断し,薬物療法を開始し,1ヵ月間の休養と,両親と一緒に過ごすように指示した.2週間後に受診した際には,仕事に復帰したいと述べ,4月18日から復帰した.症例2:20代,女性.3月24日の15時に,精神的に不安定になり,面接した.患者は最初に,3月15日の準夜勤務時に,2人の先輩が来なかったときのショックについて話した.食欲低下,不眠,倦怠感が続いており,もうどうでもいいという感じになる,と訴えた.過労状態であり,休むように指示したが,「休むと避難した人と同じになってしまう.休むのなら辞めたい.」と受け入れなかった.3連休を与えて睡眠薬を投与し,休職せずに3週間で回復した.福島第一原発事故後に,当院看護師には,放射能汚染および自主避難をめぐる強い心理的ストレスが加わっていた.