著者
坂口 一朗
出版者
大阪医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

脳神経外科における破裂脳動脈瘤に対する手術は、低血圧麻酔でおこなわれるのが一般的である。しかし通常の低血圧麻酔では、後頭蓋窩巨大脳動脈瘤等に対する直達術における術中破裂による出血の制御は、実際には困難である。これに対し一部の施設では、全身低体温、心停止下に手術を行っているが、人口心肺装置が必要とされ、これによる高度のヘパリン化、そして心停止による合併症が問題とされている。そこで、脳血流を遮断し、低温乳酸リンゲル液で脳血管内を灌流し、低血圧、低体温下で脳を保護する方法につき犬を用い実験的研究を行い、これを発表した。この方法によれば、平均5分以内に脳温を28℃まで低下させ、これを60分間維持する一方、体温は平均34℃以上を保つことが可能で、心拍は、維持される上、大量のヘパリン化も不必要であった。また、実験後の犬は神経学的異常を来すことはなかった。しかし、膠質浸透圧の極めて低い乳酸リンゲル液による灌流では脳に何らかの障害を来すことも考えられ、更に安全な灌流液を模索するため今回実験を行った。実験用ビ-グル犬を10匹用い、灌流方法は頚部脳血管遮断後、その内の一本より灌流液を注入することとし、灌流時間は120分、灌流液温度は5℃に設定した。5匹に対しては前回同様乳酸リンゲル液を灌流し、残りに対しては膠質浸透圧を血液と同じくすめためヒトアルブミンを添加した乳酸リンゲル液を作成し灌流した。灌流終了後血液で脳を復温し、6時間後に脳を摘出し病理学的検索を行った。海馬や前頭葉脳皮質、小脳皮質のHE染色を行ったが、前者と後者には有意と考えられる病理的差異は認められなかった。しかし脳浮腫に関しては両者に何らかの有意差があってしかるべきと考えられ、今後は、脳虚血に対しする影響を微小透析法等を用いて脳代謝産物を直接測定することで評価したり、比重法による脳浮腫の定量化を追加し、安全な灌流液を作成していく予定である。