著者
坂口 悠介
出版者
日本メディカルセンター
雑誌
臨牀透析 (ISSN:09105808)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.209-210, 2019-02-10

2011 年,米国Food and Drug Administration(FDA)はプロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期使用(多くは1 年以上)時にまれに発生する重度の低マグネシウム(Mg)血症に関して注意喚起を行った.とくに基礎疾患のないPPI 内服者が低Mg血症からtorsades de pointes をきたしたというケースも報告されており,PPI 長期投与例では定期的な血清Mg 濃度のモニタリングが望ましい.PPI による低Mg血症はこの薬剤のclass effect であり,いずれのPPI でも発生しうる.低Mg 血症を生じる機序として腸管でのMg 吸収障害説が有力視されており,経口Mg 補充のみでは血中Mg 濃度は十分に上昇しないが,原因薬剤の中止によって数日以内に軽快することが多い.腸管でのMg 吸収を司る主たるトランスポーターであるtransientreceptor potential melastatin type 6(TRPM6)の活性は腸管内局所のpH に依存しており,PPI 使用による腸管内pH の上昇がTRPM6 を介したMg 吸収を減弱させると考えられている.なお,ヒスタミンH2 受容体拮抗薬による低Mg 血症の報告はない.PPI を長期投与されている133 例を対象としたオランダの研究では,TRPM6 の一塩基多型(rs3750425,rs2274924)をもつ集団で低Mg 血症のオッズ比が5 倍以上上昇しており,PPI によるこの副作用の発現に遺伝的背景が一部関与している可能性が示唆される.