著者
坪井 優子
出版者
日本女性学研究会
雑誌
女性学年報 (ISSN:03895203)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.3-24, 2022-12-16 (Released:2022-12-16)
参考文献数
30

本稿では、戦後日本においていけばなを稽古した既婚女性たちに焦点を当て、趣味としていけばなを実践した女性稽古者たちが、主婦という立場で家庭生活を担うことと家の外で社会参加することをどのように主体的に実践し、どのように意味づけたか、その意味づけがどのように変遷したかを明らかにする。具体的には1955年から1973年までの期間、兵庫県いけばな協会が発行する会員誌『いけばな兵庫』に掲載された稽古者たちの投稿を分析した。 女性稽古者たちは当初、いけばなを稽古する目的を明るい家庭生活のためだと語り、投稿からは主婦として家庭生活を担っている様子がうかがわれた。しかし1963年以降、彼女たちはいけばなの意義を家庭生活ではなく自己や社会と結びつけ、そこで培った縁の価値を語るようになっていく。 この変化の要因として、女性稽古者たちの投稿に頻繁に登場した稽古仲間や先生との交流によって築かれた、家族以外との紐帯があげられる。彼女たちは稽古以外にも、協会が主催する研修や旅行に参加することで知見を深め、家庭の外で人脈や見聞といった資本を得るとともに、長年の稽古の結果として免状や花展への出品といった資本も獲得した。こうした家の外での経験や、家元制度のなかで実践される長年の稽古の積み重ねによってこそ獲得できる紐帯は、主婦である女性稽古者たちに自信を与え、やがては自己実現へと導いてくれる大きな要因のひとつだったといえよう。