著者
垂井 泰子
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.93, pp.31-47, 2019

ヘンリー・ジェイムズはハイブラウで難解な作家であるが,彼の小説の映像版は広くミドルブラウの人々を対象に制作されている。『黄金の盃』の映画はミドルブラウの人々を惹きつけるために原作を大幅に変更している。BBC 制作の同小説のドラマ版は,原作になるべく忠実に作られているが,映画と同じようにミドルブラウの視聴者を対象にしている。ミドルブラウの人々はローブラウから上昇してハイブラウに近づこうとする上昇志向の人々で,新しい地位にふさわしい教養を求める。教養を求めて本から映像へとメディアを横断し,また階級も横断する,ダイナミックで消費意欲があるミドルブラウの人々を格好のターゲットとして,制作者は文学作品を映像化するのである。