著者
垣矢 直俊 桐谷 圭治
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.79-86, 1972-06-25
被引用文献数
2 8

固定飛しょう法を用いてツマグロヨコバイ成虫の飛しょう能力に及ぼす羽化後の経過日数(実験I), 親の産卵開始後の日齢(実験II), 飼育密度の影響(実験III)を調べた。実験Iの飼育は25℃, 24時間照明下で, 実験II, IIIのそれは30℃, 16時間照明下で行ない, 飛しょう実験は30℃の恒温室内で, 固定したテグスの一端に試験虫の前胸背板を固定し, 上方より螢光燈で照明, 前方より扇風機で1-2m/secの風を送りながら行なった。羽化後, 雌では2日目, 雄では4日目より飛しょうを始め, 雌雄とも羽化後約8日目に飛しょう時間, 飛しょう虫率ともピークに達した。この時期は産卵開始日(平均9.7日)の少し前であった。親の日齢の影響は若齢の親(産卵開始後1-3日目), 中齢の親(6-8日目), 老齢の親(9日目以後)に産卵された卵をとり, それに由来する子世代間で飛しょう能力と生理的諸形質(幼虫期間, 成虫寿命, 総産卵数, 日当り産卵数, 後翅幅/後脚脛節長)との関係を比較した。若齢の親に由来する子世代では飛ぶ個体は飛ばない個体に比べ, 生理的形質の悪化がみられたが, 老齢の親に由来する子世代ではその関係が逆転していた。したがって若齢の親に申来する子世代で定住型と移動型の分化がみられるが老齢の親に由来する子世代では単にVigourの強い個体がよく飛ぶということが推察された。幼虫期の飼育密度を変えた個体間では集合区(チューブ当り5頭)の個体が単独区の個体に比べ飛しょう能力が高かったのに対し, 生理的諸形質がすべて劣っていた。このことから幼虫期の集合飼育は定住型と移動型の分化を促すものと思われる。成虫期の飼育密度の影響は飼育密度が低かったせいもあってはっきりしなかった。