著者
堀 将太
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

我々はこれまでに、高脂肪食摂取が12α水酸化胆汁酸(12αOH)を増加させることを明らかにしてきた 。本研究では、ラットにおいて高脂肪食摂取が胆汁酸前駆体であるコレステロール蓄積を引き起こし、胆汁酸合成の律速酵素CYP7A1および12αOH合成を司るCYP8B1の遺伝子発現レベルを増加させることで12αOHを増加させる事を明らかとした。さらに、12αOHの増加が肝臓脂肪蓄積と相関することを見出したことから、肝臓で合成される12αOHであるコール酸(CA)をラットに与える事で12αOHの脂肪肝への影響を調べた。その結果、12αOHの増加が摂取エネルギー量と無関係に脂肪肝を発症させることを示した。このとき、興味深いことに、 肝臓脂肪蓄積に関与する肝臓鉄濃度がCA摂取によって低下することを新たに発見した。さらに、バンコマイシン(VCM)投与によって腸内細菌による二次胆汁酸生成を抑制してもCA摂取は肝臓鉄濃度を低下させること、CA摂取による肝臓鉄濃度の低下は食事鉄摂取量および吸収率とは無関係であることも明らかとした。驚くべきことに、肝臓鉄代謝に関わる遺伝子発現を網羅的に解析したところ、鉄輸送に関与するリポカリン2(LCN2)の遺伝子発現レベルがCA摂取によって特異的に増加することを見出した。肝臓がLCN2を産生する主要な臓器である知見と一致して、CA摂取はVCM投与の有無に関わらず肝臓LCN2の遺伝子発現レベルおよび血中LCN2レベルを上昇させた。肥満や脂肪肝患者は鉄欠乏状態に陥るリスクが健常なヒトに比べ高い事が報告されていることから、血中12αOHの増大がLCN2を介して鉄欠乏状態のリスク上昇に関与している可能性がある。