著者
堀上 大貴 小林 幸司 村田 幸久
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.6, pp.395-400, 2020 (Released:2020-11-01)
参考文献数
46

血管は正常時,高分子を透過させずに酸素や栄養素などの低分子のみを透過させる.しかし,組織で炎症が惹起されると血管の透過性は亢進し,血漿中の高分子や水分が血管外に漏出する.これが免疫細胞の浸潤や炎症性メディエーターの産生の引き金となって炎症をさらに進行させる.血管透過性の亢進は,炎症を背景にもつ疾患の進行に深く関わるが,その制御機構については未だ不明な点が多い.血管透過性の制御に関与する細胞として,血管を構成する内皮細胞と血管壁細胞の2つが挙げられる.内皮細胞は血管の内腔側を覆い,内皮バリアを形成する.一方血管壁細胞は収縮・弛緩することで下流組織の血流量や血圧を調節する.内皮バリアの強化と血管の収縮は透過性を抑制する要因であり,内皮バリアの崩壊と血管の弛緩は血管透過性を亢進する要因となる.プロスタノイドは炎症刺激に応じて産生される低分子生理活性脂質であり,痛みや発熱,細胞浸潤などを引き起こす他,血管透過性にも大きな影響を及ぼす.本稿では,炎症性生理活性脂質として広く知られるプロスタグランジン(PG)E2をはじめとして,PGI2,PGF2α,PGD2,トロンボキサン(TX)A2が血管透過性に与える影響について,内皮細胞や血管壁細胞に発現する各々のGタンパク質共役型受容体の発現量やその働きに注目して整理してみたい.