著者
堀場 明子
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.59-68, 2016 (Released:2019-08-01)

本稿は、2004年から再燃化したタイ深南部の紛争について、その歴史的、政治的要因を整理し、長引く紛争の現状を紹介するものである。また、タイ政府とマレー系武装勢力の間で2013年から始まったトラック1レベルの和平対話について、また現軍政権下において行われている和平対話に向けた取り組みついても考察している。それにより、報道されない紛争の一つといえるタイ深南部紛争について包括的な理解を促したい。また、和平対話の成功に重要な役割を担っている市民社会の現状と課題について、特に市民社会の脆弱性がどのように和平対話に影響するか、現地調査を基に検討している。紛争下で最も弱い立場にある人々の声を集約しトラック1の和平対話に届け、政策に盛り込ませる提案をすることが重要であるが、タイ深南部の市民社会団体の多くは分断し対立している状態であり、彼らの能力強化と意識改革が必要といえる。ボトムアップの平和構築活動が何よりも重要であり、市民社会への支援が、時間がかかるけれども持続可能な和平につながるからである。また、同地域における、国際社会が果たしうる役割について、特に信頼醸成活動の重要性についても論じている。