- 著者
-
竹端 寛
- 出版者
- 国際ボランティア学会
- 雑誌
- ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, pp.67-83, 2002-11-01
本稿では、日本の精神科ソーシャルワーカー(PSW)の現状と課題について、援助を受ける精神障害者(当事者)の視点に立った分析を行った。分析の際、PSWの関わりの強い精神病院からの退院支援に限定して、その中でも、日本独特の支援形態ともいえる「アパート退院」支援に着目し、この支援についてのPSWの関わりについて調べる中で、次の3つの事が明らかになった。1つ目は、PSWが家族機能の「代行」だけでなく、家族関係の再生のための「仕切り直し」の役割を果たしている、という事である。2つ目は、PSWは「制度的福祉」を利用するが、時としてその枠内では満足な当事者支援が出来ない場合がある、ということである。3つ目は、上述の2つの結果として、PSWが援助を主体的に行えば行うほど、自身の専門領域を越えて「自発的福祉」の担い手として「ボランティアとは言わないボランティア」になっている、ということである。次に本稿では、「家族」「制度的福祉」「ボランティア」をPSWと共に精神障害者支援に不可欠な「福祉資源」と捉え、「即興性」・「定常性」軸、「素人性」・「専門性」軸の2つの軸を使って4つの「福祉資源」を分類した。本来この4つは役割分担しあう関係であるはずが、現状ではPSWが全てを「代行」していることも明らかになった。そして、以上の分析の結果として現状では、個々のPSWや当事者のパーソナリティー如何に関わりなく、当事者は4つの福祉資源全てを一手に引き受けるPSWに対して「お伺いをたて」ざるを得ない状況に構造的に追い込まれてしまう事がはっきりとした。