著者
鈴木 仁一 山内 祐一 堀川 正敏
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.292-298, 1977-10-01

β-ブロッカーが循環器系心身症の愁訴改善に有用であるとの報告は1965年にすでになされているが, われわれは, 精神薬理学的実験によって, その作用機序を解明することにした。実験対象は冠不全 5,NCA 5,本態性高血圧症 2,陳旧性心筋梗塞 1 の合計13例で, いずれも発症または経過に心理的要素が重大な影響をもつ心身症例である。これらの患者に, われわれの考案した鏡映描写試験により心理的ストレスを与えると, 動悸, 前胸部不快感などの自覚症状が発生するだけでなく, 血圧の上昇, 心拍数の増加, 心電図上で不整脈, ST-T異常が起こり, しかもその異常は尿中カテコールアミンの排泄増加および血中カテコールアミンの指標としてのFFAの増加と正の相関を示す。そこで鏡映描写試験前にβ-ブロッカーを内服させて前処理をしてみたところ, 自覚症状は発生せず, 血圧上昇, 心拍数増加は推計学的に有意の差で阻止され, 心電図にも異常所見は現われなかった。しかし, 尿中カテコールアミンおよび血中FFAは非処置群と同様に増加していた。以上のことにより, β-ブロッカーは心理的原因によって起こる循環器系異常を, 生体が生理的に反応してくる以前に, β-受容体の段階で阻止できることを明らかにすることができた。