著者
堀川 英喜
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.104-108, 2014 (Released:2017-02-16)
参考文献数
24

「免疫系:脳と精神疾患の架け橋」と題したシンポジウムが開催され,筆者(堀川英喜)が座長を務めた。近年,精神疾患において免疫系の異常を報告する研究成果が数多く報告されている。当シンポジウムで各国の研究グループが各々の最近の実績を報告し,特に気分障害と神経免疫系の関連についてのデータが多数紹介された。第 1 シンポジストの Norbert Müller 博士(ドイツ)は「うつ病の炎症性バイオマーカー」という演題で,気分障害において異常値を示す各種炎症性サイトカイン・それらがセロトニン代謝系へ及ぼす影響や,抗炎症薬のうつ病に対する効果に関して最新の知見を紹介した。第 2 シンポジストの筆者は「うつ病とミクログリア:精神薬理学的知見から」という演題で,in vitro 実験系における抗うつ薬のミクログリア活性化調節作用を紹介した。この作用はセロトニントランスポーターに対する作用とは独立したものと考えられた。第 3 シンポジストの Castilla-Puentes 博士(アメリカ)はデータマイニングの手法を用いることにより,抗 TNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)薬の治療を受けた患者において抑うつ症状や自殺企図のリスクが増大したという報告はないと発表した。第 4 シンポジストの Franco 博士(コロンビア)の発表は中止となった。以上の発表について討議が行われた。うつ病をはじめとする気分障害の病態はモノアミンの異常だけで説明するのは困難であり,その病態には多くの因子が関わると考えられる。その中でも神経免疫系は特に重要で,当シンポジウム「免疫系:脳と精神疾患の架け橋」が生物学と精神医学の架け橋となり,さらなる研究の進歩の契機となるよう期待される。