著者
堀江 達哉
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構西日本農業研究センター
雑誌
新近畿中国四国農業研究 (ISSN:2433796X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.49-58, 2018 (Released:2018-09-05)
参考文献数
5

農家や農業生産法人などの生産者が加工・販売に取り組む際には農業経営体としては経験のない様々なビジネスの問題に直面することになる.本稿ではトマト生産者を対象に先進的な事例の加工・販売における取り組み実態を類型化し,問題点や対策について整理を行った.さらにビジネスモデルの概念として,顧客価値創造,利益創出方法,利益実現のプロセスといった3 つの構成要素を用いて加工・販売事業への取り組みを再整理し,一連の経営行動に対 する評価を行った. 事例から整理されるトマトの加工・販売事業における問題点は,(1)初期導入費用の負担と資金調達,(2)加工技術の取得と商品化に一定期間を要する,(3)適正生産量(規模)の確保とそれに応じた販売量の実現,(4)原料過不足時における生食用と加工用の調整方法,(5)トマトの収穫期と加工品の製造期間の競合による労働力確保,(6)市場設定と競合製品との差別化,(7)販路確保や開拓の困難性などがあげられる. これに対する方策として,①補助金などの利用や加工の委託,②行政や関係機関による支援や加工機械業者による指導,加工自体を委託する,③販路を確保後に販売量に応じて加工量を増加させることや自社規模に適した加工販売の展開方法を選択する,④生食用と加工用の販売方法に応じた自社内での調整やJA や周辺産地からの原材料の確保,⑤自社の他部門との調整や季節雇用の利用,⑥品質にこだわる消費者や地域内を市場として差別化を図る(栽培法による差別化,商品の高級化,ブランド構築),⑦商談会やイベントなどの活用や販促活動,生食用トマトの販路活用などの対応が取られている. ビジネスモデルの3 つの構成要素である顧客価値創造,利益創出方法,利益実現のプロセスは,それぞれWho-What-How(誰に,何を,どうように)という軸によって細分化されるが,事例における問題点と対応について,このビジネスモデルの構成要素で再整理し,その内容を検討すると,高い収益性をあげている事例では3 つの構成要素について対応している項目が多く,特に顧客価値創造の項目が充実していることなどが認められた.