著者
細見 彰洋 安永 昌代
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構西日本農業研究センター
雑誌
新近畿中国四国農業研究 (ISSN:2433796X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.67-78, 2019 (Released:2019-03-18)
参考文献数
19

殺虫・殺菌剤を使わず栽培した無防除区の露地栽培‘デラウェア’樹では,べと病の蔓延が目立ち収穫期ごろからの落葉が多発した.果実品質ではやや酸度が高い特徴が観察された以外,慣行栽培樹と異なる傾向は認められなかった.しかし,新梢は冬季の枯れ込みが多く,供試樹は年々衰弱して結果母枝の確保が困難となった. 落葉被害が無防除区の特徴であったことから,立木や鉢植え樹を使って様々な時期や規模で人為的に葉を切除し,果実品質と新梢生育への影響を確認した.その結果,果実生長第Ⅰ期に相当する5 月末~6 月中旬に全葉を切除した場合に果粒の肥大や着色,糖度の低下,酸度の増大が認められた.一方,葉の切除が部分的な場合や,果実生長第Ⅲ期である7 月中旬以降の場合には明らかな影響は認めなかった.一方で,冬季の枯れ込みは5~6 月よりも7 月の葉の切除で助長された. 以上から,露地栽培‘デラウェア’において,殺虫・殺菌剤の不使用で顕在化した葉の損傷は,果実生長第Ⅲ期以降の同化養分の供給を阻害し,果実品質への影響は少ないものの,冬季の枯れこみを助長し,年数とともに樹体を衰弱させたものと推察された.
著者
堀江 達哉
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構西日本農業研究センター
雑誌
新近畿中国四国農業研究 (ISSN:2433796X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.49-58, 2018 (Released:2018-09-05)
参考文献数
5

農家や農業生産法人などの生産者が加工・販売に取り組む際には農業経営体としては経験のない様々なビジネスの問題に直面することになる.本稿ではトマト生産者を対象に先進的な事例の加工・販売における取り組み実態を類型化し,問題点や対策について整理を行った.さらにビジネスモデルの概念として,顧客価値創造,利益創出方法,利益実現のプロセスといった3 つの構成要素を用いて加工・販売事業への取り組みを再整理し,一連の経営行動に対 する評価を行った. 事例から整理されるトマトの加工・販売事業における問題点は,(1)初期導入費用の負担と資金調達,(2)加工技術の取得と商品化に一定期間を要する,(3)適正生産量(規模)の確保とそれに応じた販売量の実現,(4)原料過不足時における生食用と加工用の調整方法,(5)トマトの収穫期と加工品の製造期間の競合による労働力確保,(6)市場設定と競合製品との差別化,(7)販路確保や開拓の困難性などがあげられる. これに対する方策として,①補助金などの利用や加工の委託,②行政や関係機関による支援や加工機械業者による指導,加工自体を委託する,③販路を確保後に販売量に応じて加工量を増加させることや自社規模に適した加工販売の展開方法を選択する,④生食用と加工用の販売方法に応じた自社内での調整やJA や周辺産地からの原材料の確保,⑤自社の他部門との調整や季節雇用の利用,⑥品質にこだわる消費者や地域内を市場として差別化を図る(栽培法による差別化,商品の高級化,ブランド構築),⑦商談会やイベントなどの活用や販促活動,生食用トマトの販路活用などの対応が取られている. ビジネスモデルの3 つの構成要素である顧客価値創造,利益創出方法,利益実現のプロセスは,それぞれWho-What-How(誰に,何を,どうように)という軸によって細分化されるが,事例における問題点と対応について,このビジネスモデルの構成要素で再整理し,その内容を検討すると,高い収益性をあげている事例では3 つの構成要素について対応している項目が多く,特に顧客価値創造の項目が充実していることなどが認められた.
著者
堂山 宗一郎 石川 圭介 上田 弘則 江口 祐輔
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構西日本農業研究センター
雑誌
新近畿中国四国農業研究 (ISSN:2433796X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.13-19, 2019 (Released:2019-03-18)
参考文献数
23

日本においてニホンジカ(Cervus nippon)による農林業被害が増加している.ニホンジカの聴覚を利用した音による防除が簡便な方法として用いられることもあるが,その効果を検証した科学的研究は少ない.本研究では,人間の可聴域を超える周波数帯の音である超音波(20kHz ≦)によるニホンジカ防除技術の効果を検証するため,継続提示した超音波に対するニホンジカの行動を調査した.飼育ニホンジカ(ホンシュウジカ)4 頭を実験に供試し,エサを設置した場所に対して,超音波である25kHz の音または人間の可聴音でもある5kHz の音を音圧90dBで提示する2 つの音提示条件と音を提示しない無音条件で実験を行なった.実験音は,実験開始から10分間継続して提示した.その結果,どちらの音条件においても無音条件と同様に全ての供試個体が音の提示中にエサの摂食を開始し完食もしたため,超音波の継続提示はニホンジカの摂食行動を抑制しなかった.摂食行動の発現時間や音を提示した場所での滞在時間は,無音条件よりも両音条件の方が短くなり,超音波や音の提示が供試個体に対して警戒や不快感を誘発させることも皆無ではなかった.しかし,音を提示した場所へ侵入するまでの時間や摂食を開始するまでの時間は,実験2 日目には短縮し,警戒行動も実験1 日目にしか見られなかったことから,音に対する速やかな馴致も確認できた.これらの結果から,超音波などの音の継続提示ではニホンジカに対して摂食行動を抑制することはできず,音刺激に対して急速に慣れてしまうため,ニホンジカによる農作物被害の対策技術として超音波の継続提示には効果がほとんどないと考えられた.