著者
塩沢 俊一
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.286-291, 2013-12-30 (Released:2015-06-30)
参考文献数
4

Burnet博士のクローン選択説では,自己応答性クローンは胎児期に禁止forbiddenされているため,自己抗体の検出イコール自己を攻撃する自己免疫疾患と看做された.確かにSLEには自己を攻撃する抗核抗体,抗二本鎖DNA抗体などが見出され,自己への攻撃性がSLEの病態の基盤をなす(現象)が,現象イコール真実(原因)なのかがこの50年間問われず自己抗原や自己を攻撃する理由のみが研究されて今なお発症病因は不明のままである. 私達は自己臨界点説を提唱し,SLEが自己免疫に因らず,外来抗原の繰返し刺激に対する正常(通常)の免疫応答に因り生じることを示した.自己応答性T細胞は,胸腺の選択を逃れた一部のT細胞でなく,胸腺を通過して一旦は自己非応答性を獲得した大部分を占めるT細胞集団の中からV(D)J遺伝子再構成を経て新たに生成するのであり,抗原による自己臨界点を超えた過剰刺激の結果,自己応答性のautoantibody-inducing CD4T cell(ai CD4T cell)が誕生し,このai CD4T細胞が一方で多彩な自己抗体を誘導し他方でCD8T細胞を刺激して組織傷害を生起させてSLEに至る. これに対して自己免疫疾患説は,SLEにみられる140種類を超える広範な自己抗体レパトワが,⑴胸腺の選択を逃れた一部のT細胞あるいは⑵胸腺を通過して自己非応答性となったT細胞集団の中から免疫寛容が破綻して生じた一部のT細胞から生じると説明するが,限定されたT細胞から広範なレパトワは生じ得ない.SLEにみられる広範な自己抗体レパトワは,末梢免疫組織でV(D)J遺伝子再構成によって新たなTCRが獲得されて生じるとする方が自然である. そもそも私達のからだに生じた炎症は治りにくく,身体に致死的でない病原体が繰り返して侵入しやすい素地がある.すなわち一般に,病原体が侵入するとpathogen-induced tissue injuryが生じるが,これに対する防御応答によってもdefense-induced tissue injuryが生じて,両者とも進化上不利である.したがって,進化上の必然性をもって,現代に生きる生命体は病原体を発症しないレベルに抑え込むがこれを徹底的には殲滅しない防御機構を備えるに至ったと考えられる. 自己臨界点説によれば,たまたまある病原体がHLA上にうまく抗原提示されて当該個人のリンパ球が過剰刺激されるならばSLEが発症する.この際,原因となる抗原は違ってよいが,個人の免疫システムが自己臨界点を超える過剰刺激を受けるか否かが発症の分かれ目になる.