著者
塩谷 治彦
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.132-149, 1997-06-30 (Released:2009-11-16)
参考文献数
24

いじめが重大な社会問題となっている中で,この論文は現代的いじめをもたらす社会的背景についての解明を試みたものである。いじめを引き起こす原因,または仮説として,家庭の中での過保護や放任,甘やかしなどが指摘される一方,その社会背景として受験競争や管理主義の学校教育の弊害が指摘されてきたが,現代のいじめを引き起こす原因の説明としては不十分の感がある。そこで本論では,いじめを引き起こす社会背景として共同社会から利益社会への変化の中で相互の信頼関係が衰退しており,それが進学競争や管理主義教育の中で青少年の不満や葛藤を強めているという仮説を設定した。現代的いじめを引き起こす要因として家庭や学校での青少年の置かれた抑圧的状況を仮定し,少年たちの欲求不満やストレスの増大がいじめにそのはけ口をもたらしているものと考えられる。ただし,いじめが暴行や恐喝,傷害など陰湿で残酷な行為につながる場合には,管理主義的教育や進学競争の中での緊張や欲求不満ばかりでなく,問題を起こす少年たちの管理・抑圧されることへの「うらみ」の感情があることを仮定することが必要である。いじめが暴力的非行に結び付く場合には,自己主張を抑圧されることのうらみの心理が方向転換されて弱い者いじめに結び付く可能性が高いことを示した。
著者
塩谷 治彦
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.132-149, 1997

いじめが重大な社会問題となっている中で,この論文は現代的いじめをもたらす社会的背景についての解明を試みたものである。いじめを引き起こす原因,または仮説として,家庭の中での過保護や放任,甘やかしなどが指摘される一方,その社会背景として受験競争や管理主義の学校教育の弊害が指摘されてきたが,現代のいじめを引き起こす原因の説明としては不十分の感がある。そこで本論では,いじめを引き起こす社会背景として共同社会から利益社会への変化の中で相互の信頼関係が衰退しており,それが進学競争や管理主義教育の中で青少年の不満や葛藤を強めているという仮説を設定した。現代的いじめを引き起こす要因として家庭や学校での青少年の置かれた抑圧的状況を仮定し,少年たちの欲求不満やストレスの増大がいじめにそのはけ口をもたらしているものと考えられる。ただし,いじめが暴行や恐喝,傷害など陰湿で残酷な行為につながる場合には,管理主義的教育や進学競争の中での緊張や欲求不満ばかりでなく,問題を起こす少年たちの管理・抑圧されることへの「うらみ」の感情があることを仮定することが必要である。いじめが暴力的非行に結び付く場合には,自己主張を抑圧されることのうらみの心理が方向転換されて弱い者いじめに結び付く可能性が高いことを示した。
著者
塩谷 治彦
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.60-83, 1995-04-15 (Released:2009-11-16)
参考文献数
33
被引用文献数
1

この論文は、今日の暴走族や不良生徒集団など青少年の非行や逸脱行動を社会病理学的に理解しようとする試みである。エリクソンの自己同一性に関する発達理論は、青年期の非行や逸脱行動を理解するための枠組みとして貢献してきたが、それは概ね発達心理学的アプローチであって、非行を社会病理学的に理解しようとするものではなかった。そこで本論では諸価値の凋落による価値の主観化、またそれに伴う競争社会化という視点を青少年の病理を解明するために導入した。そして今日の大人になりたがらない青少年の心理の背景に世界の脱価値化に伴う競争社会の浸透という事態があることを示した。暴走族などの非行を理解するため、同一性危機や青年期危機による非行という概念が提示されてきたが、これらの理論は概ね非行を発達上の危機の現れと見ているため、青少年の病理の社会学的要因を十分に解明していない。現代的な非行現象には世界の非価値化と競争社会状況に対する反感が認められるのであり、それが彼らを暴走族や不良集団などへの参加と逸脱にかりたてる重要な動機であることを示した。