著者
増田 豊文
出版者
東北文化学園大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

研究期間の最終年度となる平成21年度においては、仙台市内の小学校123校の中から、ビオトープを所有する小学校と所有しない小学校、学校周辺に自然環境のない仙台駅周辺の小学校と比較的自然の残る郊外の小学校という二つのカテゴリーから7校を選出して、アンケート調査を実施した。その目的は、異なる自然環境条件の小学校における各児童の自然体験の実態を把握し、その経験が児童の倫理観の育成にどの様な影響を及ぼすのかを検証することであった。その根拠となったものは、平成10年に実施された文部科学省の子供の体験活動等に関するアンケート調査報告の「自然体験が豊富な子供ほど、道徳観・正義感が充実」という結果によるものである。住環境の都市化が進む状況下、子供達の自然体験の機会を増やすには、学校生活の場となる教育施設の屋外環境のあり方を、自然化という形で見直す必要がある。今回実施したアンケートは、7校の1年生から6年生までの全学年を対象としたため、合計で4394人となった。また、アンケート調査には児童の倫理観を問う内容が含まれていたため、仙台市教育委員会に研究の意義と内容を理解してもらい、教育委員会を通して対象校の校長に調査協力依頼をするという方法をとった。アンケートの分析結果の主な内容を、以下に示す。小学校の立地条件における子供達の自然体験の差は大きくは見られなかったが、全体的に自然観察や里山遊びが好きな子供ほど、人に優しくしたり悪いことを注意したりする傾向が見られた。特に、ビオトープを有する小学校においては、ビオトープでよく遊びそこに棲息する生き物が好きな子供ほど、同様の傾向が見て取れた。また、低学年になるほどビオトープに興味をもって遊んでおり、平成20年度に実施したビオトープでの児童の行動調査と一致するものであった。これらのことから、教育施設の屋外環境を単なる緑化に留まらず生き物と触れ合う場として自然化することの重要性を、倫理教育の側面から検証できたと考えている。これらの研究成果は研究報告書としてまとめ、協力いただいた学校関係者や関係する学術団体に、今後報告する予定である。