- 著者
-
増田 静佳
- 出版者
- Japanese Society of Gerodontology
- 雑誌
- 老年歯科医学 (ISSN:09143866)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, no.3, pp.344-349, 2002
訪問歯科診療で, 義歯の試適中に意識消失を起こした症例を経験した。<BR>患者は78歳の女性で, 主訴は歯牙欠損による咬合不全であった。既往歴は, 糖尿病, 高血圧, 高脂血症と, 脳出血・脳梗塞後遺症による右片麻痺, 痴呆, 抑うつ症であった。<BR>初診では, 口腔内診査により上下顎部分床義歯作製が予定され, その後訪問診療2~5回目まで, 特に問題なく経過した。<BR>6回目, 蝋義歯による仮床試適を行ったところ, 患者は突然椅子から倒れ, 意識を消失した。意識消失時間は10数秒程度であった。その後呼名に対しわずかな反応が出現し, 数分後, 顔色が戻りやがて会話が可能となった。約40分間, 経過を観察し, 一般状態に特に異常がないことを確認してから患家を退出した。<BR>この意識消失に陥った原因は, 既往歴から反復性のTIA (一過性脳虚血発作) や症候性てんかん等も疑われた。一方, 患者は痴呆による認知能力の低下があり, 診療内容に十分な理解を得る事が難しかったことやその経過から, 義歯試適がストレスとなった神経原性ショックの可能性も考えられた。<BR>訪問歯科診療の対象となるような予備力の少ない要介護高齢者に対しては, 義歯の試適のようなストレスが低いと考えられる処置に際しても注意が必要である。