著者
湖山 昌男 石山 直欣 渡邊 郁馬 佐藤 亨 腰原 好 牧野 正義
出版者
Japanese Society of Gerodontology
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.126-131, 1992

従来咀嚼能力の測定には様々なものが考案されている。しかしこれらは日常の食生活を考慮した測定方法とは必ずしもいえない。老年者に対する歯科医療の現場では「食べたいものが噛めない」という患者の声は切実であり, 日常の食事における食品と対応した咀嚼能力の判定が必要であると考えられる。そこで今回われわれは, 義歯に対して付着性が低く, 安心して食べることができ, 診療室内で簡単に咀嚼能力を判定できるものとしてゼリーを用い, 日常食品の物性に対応した試料の作製を試みた (G-1ゼリー) 。<BR>試料のゲル化剤には寒天とゼラチンを使用した。外形は13mm角の立方体であり, 一口では飲み込めない大きさを考慮した。物性については柳沢らの「咀嚼筋活動量による食物分類」を用いた。10のランクに分けられた食品群のうち, 実用的な最低ランク2と最高ランク10, そして中間の3つのランクを選び, 5段階の試料を作製した。味については, 一般的に好き嫌いが少ないと思われる柑橘系にした。この試料に対して健常成人10人による官能試験と当科外来患者24人に臨床試験を行った。その結果今回の試料が食品と対応し, 臨床的に簡便で有効な試料であることが確認された。
著者
増田 静佳
出版者
Japanese Society of Gerodontology
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.344-349, 2002

訪問歯科診療で, 義歯の試適中に意識消失を起こした症例を経験した。<BR>患者は78歳の女性で, 主訴は歯牙欠損による咬合不全であった。既往歴は, 糖尿病, 高血圧, 高脂血症と, 脳出血・脳梗塞後遺症による右片麻痺, 痴呆, 抑うつ症であった。<BR>初診では, 口腔内診査により上下顎部分床義歯作製が予定され, その後訪問診療2~5回目まで, 特に問題なく経過した。<BR>6回目, 蝋義歯による仮床試適を行ったところ, 患者は突然椅子から倒れ, 意識を消失した。意識消失時間は10数秒程度であった。その後呼名に対しわずかな反応が出現し, 数分後, 顔色が戻りやがて会話が可能となった。約40分間, 経過を観察し, 一般状態に特に異常がないことを確認してから患家を退出した。<BR>この意識消失に陥った原因は, 既往歴から反復性のTIA (一過性脳虚血発作) や症候性てんかん等も疑われた。一方, 患者は痴呆による認知能力の低下があり, 診療内容に十分な理解を得る事が難しかったことやその経過から, 義歯試適がストレスとなった神経原性ショックの可能性も考えられた。<BR>訪問歯科診療の対象となるような予備力の少ない要介護高齢者に対しては, 義歯の試適のようなストレスが低いと考えられる処置に際しても注意が必要である。
著者
冨士田 益久 木原 秀文 藤本 嘉治 吉田 裕 三吉 一子 米虫 和子
出版者
Japanese Society of Gerodontology
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.250-257, 1996

大阪市では在宅寝たきり高齢者の歯科保健対策について調査研究を行うため, 訪問診査を実施している.1993年 (平成5年) 1月から3月まで大阪市内4区 (東部-城東区, 西部-大正区, 南部-東住吉区, 北部-東淀川区) に居住する65歳以上の在宅寝たきり高齢者の歯科保健の実態とニーズを調査し, その概要を把握した.それに基づき, 大阪市東淀川区歯科医師会では1994年 (平成6年) 6月1日より大阪市からポータブル歯科診療器具の貸与を受け, 実際の訪問歯科診療を行っている.今回, 大阪市4区の訪問診査の結果を報告すると共に, 現在実施している大阪市東淀川区の在宅寝たきり高齢者訪問歯科診療について報告する.<BR>訪問診査の調査対象者は, 大阪市環境保健協会訪問指導員による訪問指導を受けている者のうち厚生省寝たきり度判定基準B, Cランクに属し, 65歳以上で, 上記4区に居住し, 訪問診査を希望する者で, 総計52名に実施した.そのうち歯科診療を希望する者が26名 (50.0%) あり, 診査に当たった歯科医師は, 29名 (55.8%) に歯科診療の必要性を認めた.また, 1994年6月1日から1995年3月31日までの間に大阪市東淀川区で実施した訪問歯科診療の件数は, 8名で, 延べ訪問回数は55回であった.<BR>これらの結果から, 在宅寝たきり高齢者の口腔内の状態の改善と向上を図り, 歯科保健指導ならびに訪問歯科診療の推進が必要であり, それらを整備し, 充実することは, 在宅寝たきり高齢者の口腔保健と福祉の向上に有意義であることが示唆された.
著者
金井 康子 溝川 信子
出版者
Japanese Society of Gerodontology
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.94-99, 1997

老年者のQ.O.L (生活の質) の維持向上に口腔の担う役割は大きい。今回, 我々は口腔機能の向上を目指す一環として, 老年者の口腔の現状を調査し, その結果とADL (日常生活動作) との関係を報告する。<BR>阪和泉北病院は1, 900余床を有するいわゆる老人病院で歯科受診者の85%が70歳以上である。そのうち当科で義歯作製または床裏装をした65歳以上の入院患者538人を対象とした。調査方法は受診理由・咀嚼能力・残存歯数・ADLの4項目について, まず受診目的とどんな食品が食べられるかもしくは食べているかを問診したのち, 固定性の残存機能歯数を調べ, 厚生省の寝たきり老人判定基準により判定したADLについて比較検討を行った。その結果<BR>1) 受診理由は義歯不適合232人 (43.1%) が圧倒的に多く, 次いで義歯初作製101人 (18.8%) 紛失94人 (17.5%) などであった。<BR>2) 咀嚼能力では流動食, らっきょう, たくあん・おかきを食べている者の合計は98人 (18.3%) と少ないのに対し, お粥138人 (25.7%) ご飯157人 (29.2%) 蒲鉾145人 (27.0%) とその合計は81.7%を占めておりこれらの食品を食べられる者が多かった。<BR>3) 残存歯数が10歯未満の者は442人 (82.2%) と大部分を占め, 10-19歯の者は79人 (14.6%) 20歯以上はわずか17人 (3.2%) であった。また義歯使用者は310人 (57.6%) であった。<BR>4) ADLは「屋内でのみ自立」群2-11人 (39.2%) 「準寝たきり」群176人 (32.7%) 「寝たきり」群151人 (28.1%) であった。<BR>5) ADLと咀嚼能力をみるとADLが高いほど咀嚼能力が高かった。<BR>6) 残存歯数とADLでは残存歯数が多いほどADLは高く, 残存歯数が少なくても義歯で補うことによりADLは高くなることがわかった。
著者
石川 正夫 武井 典子 石井 孝典 高田 康二 濵田 三作男
出版者
Japanese Society of Gerodontology
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.37-45, 2015

超高齢社会が進展するなか,介護を必要としないことおよび認知症の予防が急務な課題となっている。そこで,われわれは高齢者の介護予防を目指した口腔機能の評価と管理システムを開発し,ケアハウス入所者において口腔機能の向上に役立つことを確認した。 今回は,本システムが認知機能の低下抑制に役立つか否かを明らかにする目的で,グループホームにて調査を行った。対象者は鹿児島県のグループホーム入所者(「GH-A」)および神奈川県のグループホーム入所者(「GH-B」)である。初回,6カ月後,1年後の検査に参加した GH-A12名および GH-B24名を対象に,口腔機能および認知機能の評価(MMSE)を行った。初回の口腔機能検査(①口腔周囲筋,②咀嚼機能, ③嚥下機能,④口腔清潔度)結果に基づいて,個々人に対応した口腔機能向上プログラムを本人および介護スタッフに提案・実施を依頼した。実施状況は,GH-Aは毎日,GH-Bは半分程度であった。 その結果,②咀嚼機能が 1 年後にGH-Aで改善した。③嚥下機能の指標であるRSST,オーラルディアドコキネシス「pa音」の回数が6カ月後に GH-Aで有意に増加した。さらに,MMSE得点は,GH-Bで1年後に有意に低下したが,GH-Aでは変化はみられなかった。以上の結果より,プログラム実施状況の影響はあるものの,本システムの介入により口腔機能の維持・向上を通して認知機能の低下抑制に貢献できる可能性が示唆された。