著者
高木 啓吾 加藤 信秀 笹本 修一 秦 美暢 田巻 一義 木村 一博 梁 英富 外山 勝弘
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学 (ISSN:02872137)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.138-144, 2004
参考文献数
7
被引用文献数
4

背景.気管病変に対するステント療法は,多くの気道疾患患者のQOL向上に寄与したと言えるが,その適応,手技,合併症,成績に関する問題が未だ山積している.本稿では気管および気管分岐部のシリコンステント療法の有用性と問題点に論点を絞り,我々の経験例を中心に分析したので報告する.対象.1992年4月から2003年4月に経験した気管および気管分岐部の狭窄病変32例で,部位は気管14例,気管分岐部18例,疾患別では,肺癌16例,食道癌11例,悪性リンパ腫2例,気管切開後狭窄2例,甲状腺腫1例であった.ステント種別では,Dumon直型14例,Dumon-Y型13例,Dynamic型5例であった.結果.肺癌による狭窄のうち,気管病変は縦隔のbulky転移リンパ節によるものですでに予後不良であり,留置後の多くが1ヶ月以内に死亡したが,気管分岐部病変では,3ヶ月以上の生存例が10例中7例(70%)あり生存が見込まれた.一方,食道癌では,気管病変にせよ気管分岐部病変にせよ,ステント療法に加えて化学放射線治療が奏効するので,3ヶ月以上の生存例は予後が判明している10例中6例(60%)にあった.ステント留置後の腫瘍の再増生や瘻孔発生の可能性を考えると,本病変ではワイアーステントよりもシリコンステントの有用性が高いと考えられた.ステント留置に際して気管分岐部病変では,狭窄程度のみならず気道軸の偏位を重視しなくてはならず,高度偏位例では術中に出血に基づく換気障害による一時的な低酸素血症に留意しなくてはならなかった.留置後療喀出障害はステント全長が90mm以上の例で高率にあり,またステント内面の細菌増生は,留置後4ヶ月以上経過した12例で検討すると,全例でbiofilmの形成を認め,留置後の定期的な経過観察が必要と思われた.結論.シリコンステント療法は,その侵襲度は大きいが確実な気道確保のもとで行う安全な療法である.これを実践するには万全の体制でよき指導者のもとで臨まなくてはならない.呼吸器科医は今後硬性気管支鏡の苦手意識を取り去り,軟性気管支鏡のみならず硬性気管支鏡も熟知して,確実な気道確保のもとで多くの治療法を選択できるようになることが望まれる.